「氷河期には、この辺りにも山岳氷河ができたんでしょうかね?」
中岳と木曽駒ヶ岳山頂の間に鞍部があったろう。間違えた山頂山荘があった場所だ。
「あの、おかしな地形の場所ですね。高い所から眺めると妙に滑らかな鞍部でしたが」
観察が鋭いな。
あの鞍部、氷河が通った跡なんだってさ。
氷河が削ったからああいう形になったらしいんだ。
「氷河期はいつ頃から始まったんですか?」
地球史のなかでは第四期と呼ばれる時代、つまり200万年前から現在までの時代だが、この時期になって10万年に1度くらいの割合で氷河期がやってきている。そのときに日本では山岳氷河ができた。
「ということは、ロープウェイの乗り場の近くに残っているモレーン(標高1600メートル付近)は、カールの下(標高2600メートル付近)にあるモレーンよりも古いということになりますよね。モレーンがより下の方にあるということは、そのときの氷河は大きくて、カールの下で消えた氷河は小さかった。そういうことでしょう?」
そうなるね。
「では、なぜ氷河の大きさが違ったんでしょうか? 氷河期とひとくちに言っても、時期によって寒さの度合いが違ったとか?」
実に論理的に物事を考えるA君なのである。
(つづく)
(文=矢貫隆/2006年7月)