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ルノー・アヴァンタイム(5AT)【短評】
(02.11.26)
インプレッション
【スペック】全長×全幅×全高=4660×1835×1630mm/ホイールベース=2700mm/重量=1790kg/駆動方式=FF/2.9リッターV6DOHC24バルブ(207ps/6000rpm、29.4kgm/3750rpm)/車両本体価格500万円(テスト車=同じ)
■
火炎のようにクール
ルノー・アヴァンタイム(5AT)
……500.0万円
ミニバンの形態をとりながら、ドアが2枚しかない“クーペ”モデル「アヴァンタイム」。ルノーがリリースした話題作に、webCG記者が試乗した。高い視点でドライブしながら考えたこととは?
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ひとつの作品
ファインダーを覗いている峰カメラマンがつぶやいた。「シトロエンのお株うばっちゃったなァ……」。長いレンズの先には「ルノー・アヴァンタイム」が、美術館のモダーンな建物の前に置かれている。2列シートの、2枚しかドアをもたないアヴァンギャルドなミニバン。1999年のジュネーブショーでショーカーが披露され、クルマ好きの話題をさらったモデルだ。
2001年10月に発売された本国から遅れること約1年、アヴァンタイムの日本への正規輸入がよくやく決定された。販売は、2002年11月28日から開始される。気になるお値段は500.0万円。もう一息で、543.0万円からの「トヨタ・セルシオ」に手が届くプライスだが、両者を真剣に比較検討するのは、そうとう奇特なヒトだろう。
ルノーのピープルムーバー「エスパスIII」をベースにしたスタイリッシュな“クーペ”は、全長×全幅×全高=4660×1835×1630mmと、「トヨタ・イプサム」に近いボディサイズをもつ。亜鉛メッキが施された鋼板プラットフォームと太いCピラーにアルミ製のAピラーおよびルーフラインが組み合わされてモノコックが形成され、エスパスにならって樹脂製の外板が取り付けられる。
ヘッドライト上に設けられたスリットの入ったエアインテイクが個性的なフェイスを演出し、Bピラーがない(!)サイドウィンドウグラフィック(つまりアヴァンタイムはハードトップだ!!)、ハイエンドサルーン「ヴェルサティス」やハッチバック「メガーヌII」と同じく、デザインスタディ「イニシアル」に起源をもつほぼ垂直に落とされたリアガラス、そしてルーフ全体がガラスかと見まがうばかりに大きなパノラミックサンルーフ。アヴァンタイムは個性の塊である。
エンジンは2.9リッターV6(207ps、29.4kgm)を搭載、シーケンシャルモードを備えた5段ATを介して前輪を駆動する。
それにしてもプレス試乗会を開催するにあたって、よくもまぁピッタリの場所を見つけたものだ。静岡県は長泉町にある「ヴァンジ彫刻庭園美術館」の庭園内に停められたアヴァンタイムは、まるで1個の作品のよう。緑の芝生の随所に配された彫刻に負けていない。しきりに感心しながら腰をおろしてルノーのニューモデルを鑑賞していたら、いつの間にか背後に立っていた係員にたしなめられた。「展示品に座らないでください」。
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アヴァンギャルドな時間
ワクワクしながら、アヴァンタイムのドアを開ける。1.4mもの長いドアによる乗降性の悪さをすこしでも減らすため、ドア内側がヒンジのそばで折れ曲がるようになっている。つまり、一旦ドアが外側に出てから開くので、そのぶん実質の長さが短くなるわけだ。とはいえ、それでも少なくないボディ横の空間を要求するから、アヴァンタイムの購入を考えているヒトには、500.0万円のクルマにふさわしいガレージの広さが要求される。
アヴァンギャルドなルックスのクーペは、エスパスと基本的に同じ、前マクファーソンストラット、後トーションビームの足まわりをもつ。フロアをフラットにしたかったためだろう、床面の地上高は高く、着座位置が高く、視点も高い。視界の低い位置には“ちょっと懐かしい未来”といいましょうか、極力スイッチ、ボタン類を排した、シンプルにデザインされたインストゥルメントパネルが広がる。トゥインゴ以来の、ルノー得意のセンターメータースタイルが採られた。
すばらしい座り心地のレザーシートは非常に頑丈なつくりで、なぜならシートベルトが背もたれ側面に取り付けられるからである。シートが動いても、ベルトのかかり方が変わらないための工夫であり、そもそもBピラーがないので、バックレストに設置するしかなかったともいえる。広報担当者によると、豪華な革シートは1脚50万円前後するそうで、そうまでしてピラーレスにこだわった開発陣に拍手ぅ!! シートベルトには、肩、腰の部分に、それぞれフォースリミッター、点火式プリテンショナーが装備され、前面衝突時に乗員を強制的に固定する。パッシブセイフティとして、フロントにはダブル&サイドエアバッグが、そして後席まで展開するカーテンエアバッグが左右に装着される。
ドライブフィールは、ルックスほど先進的ではない。エスパスより曲げで2割、ねじれで6割アップしたと謳われるボディ剛性だが、“厳のごとく”という表現からはやや遠く、ときに軋んだり、結合の緩さを感じさせることがある。
エンジンベイの関係で盟邦日産の「VQ」ユニットは搭載できないため、パワーソースとして、87.0×82.6mmのボア×ストロークをもつルノー製フォーカム6気筒「L7X」型を積む。もごもごした、いまひとつハッキリしないエンジンである。6000rpmで207psの最高出力、3750rpmで29.4kgmの最大トルクを発生する。1790kgと軽くはないボディゆえ、ことさら速くはない。
5スピードのトランスミッションにはシフターを前後することでギアを変えるシーケンシャルモードが備わる。クーペのドライバーとして積極的に活用するべきか、ニューモードの高級車に乗る身として「D」レンジに入れたまま優雅に流すのか、アヴァンギャルドな時間をどのように過ごすかに、ステアリングホイールを握る者の個性が問われる。
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エスパスクーペ
「ミニバン」「クーペ」に加え、アヴァンタイムには「カブリオレ」としての顔もある、というのがルノーの主張である。前席天井中央部に設けられた「オープンエア」スイッチを押すと、ダブルサンルーフの前側大きなスライドガラスとサイドウィンドウが同時に開く。特にリアシートに座っていると、ピラーがないゆえの独特の開放感がある。「高速道路では、オープンエアスイッチに触れないでください。車内のモノが外に飛んでいってしまいますから」とは、試乗前の広報担当者からの注意だ。さすがはカブリオレである。
アヴァンタイムは、ボディ構造からもわかるように、エスパス同様、かつてはミサイルも開発していたマトラ社(「マトラ・ジェット」「M530」といった市販ミドシップスポーツやレーシングフィールドでの活躍で名高い)の提案によって開発が進められたクルマである。マトラ社のテクニカルアシスタント、ブルーノ・ブロシェさんにお話をうかがうことができた。
−−フランスでは、ヴェルサティスとアヴァンタイムと、どちらがエライんですか?
ブロシェさんは絶句したのち、「後者はよりパーソナルなクルマですから」と言って言葉を濁した。まるでジャンルが違うから同じ土俵で較べることはできない、ということだ。ただ、彼の地ではいわゆる高級車セグメントでのサルーンの比率は落ちる一方で、アヴァンタイムはコンサバティブなラグジュアリーモデルに替わるひとつの提案という側面をもつ。
−−つまり、フランスのエスタブリッシュメントは、公用ではヴェルサティスに乗り、プライベートな時間ではアヴァンタイムのステアリングホイールを握る、ということでしょうか?
「そうですね。そういうヒトもいると思います。それから、子供がいるうちはエスパス、彼らが親の手を離れたらアヴァンタイムという方もいらっしゃるでしょう。その場合、年輩の夫婦がターゲットになります。
−−まさにエスパスクーペとしての位置づけですね?
「その通りです」。
マトラ社のブルーノ・ブロシェ氏(中央)
写真をクリックするとシートが倒れるさまが見られます。
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独善性
「アヴァンタイムは創造性の象徴」と、マトラのテクニカルアシスタントは胸を張る。「ルノー−日産」アライアンスは、世界の自動車メーカーのなかでは、規模において第2グループに属する。アヴァンタイムは、デザインに活路を見いだすフレンチメーカーの尖兵なのだ。ヴェルサティス、アヴァンタイムで、ユーザー間に新しいデザイン路線を“高級なもの”と認識させ、メガーヌII、そしておそらく次期「クリオ」へと個性の裾野を広げるのだろう。
1994年から開発が始まった2ドアのミニバンは、新しい試みの実験場である。しかし、「ミニバンのスペースを4ないし5人にわりふった空間面での贅沢な試行」というのは、すこし違うと思う。
−−リアシートに座った際に、足先が前席に入らないのですが?
と不満を述べるリポーターに、ブロシェさんは、
「ヨーロッパのジャーナリストも同じ指摘をしました。改善の余地があるかもしれません」と応えたが、それは無粋な問いだったのかもしれない。
第2次世界大戦後の禁止税的な厳しい税制によって、フランスの高級車やスーパースポーツは死に絶えてしまった。アヴァンタイムにはそれ以前の、30年代の絢爛豪華な、しかし何の役にも立たないフランボワイヤン(火炎様式)のDNAが隔世遺伝的に噴出した感がある、といったら想像の翼を広げすぎだろうか。リッチピープルが「コンクールデレガンス」で、観客のため息とともに披露したワンオフのクルマの民主的な末裔。さらに「合理主義の影に潜む独善性」といった路線でハナシを展開したいのだが、リポーターの手にあまる。
(文=webCGアオキ/写真=峰昌宏/2002年11月)
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