ドロミテ連峰。イタリア−オーストリア国境にほど近いPasso Sella(セラ峠)は7月とは思えないほど凍えていた。さっきまで厚い雲に遮られてきた太陽は今しがたやっと姿を見せ始めたものの、気温たったの2度。道を一歩外れた斜面はまだ雪に覆われ、その白さに反射する光の乱舞が目に痛い。それもそのはず、ここは標高2200mを優に超える高地。吐く息が白いのはむしろ当然のことなのだ。
しかしコクピットの中の僕はむしろ上気していた。快適なフルオートエアコンのせいばかりじゃない。ペアを組んだ『ルボラン』誌小野泰治副編集長からステアリングを譲ってもらったばかりだというのに、カメラマンの求めに応じて撮影のため同じコーナーを何度か往復するうち、「グラントゥリズモ」のたしかな実力と魅力にすっかり心奪われてしまったからだ。
ヨーロッパはすでにバカンスシーズンの幕が上がっている。セラ峠はイタリア国内はもとより、隣接するオーストリアやドイツを中心に、ヨーロッパ中から観光客が押し寄せる人気スポット。厳しい断崖の岩肌が迫る圧倒的に美しい風景の中に身を置くと、さもありなんと思う。だから必然的に交通量は多い。しかも朝方まで降り続いていた雨のせいで、路面はまだ濡れている。405psを誇る4.2リッターV8の持てる実力を存分に発揮できる場面では決してない。他のクルマが絡まないタイミングを見計らって行うタイトベンドでのコーナリング撮影も、単なる瞬間芸といえるだろう。
しかしそれでもグラントゥリズモは、たしかな足取りと十二分なパワーのバランス、そして情感に訴えかけるキレの良さを覗かせ、アッという間に僕を魅了してみせたのだった。

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