昨年1年間の販売台数は3238台と、輸入車だけでなく国産クーペのほとんどを上回るほどの人気となった「アウディTT」シリーズ。その人気は今年も衰えを知らないようだが、この手のモデルにとっては、それは諸刃の剣でもある。話は単純。あまりに数が増え過ぎると、個性を買うという意味での魅力が薄れてしまうからだ。
その意味でもTTSの登場は、まさにグッドタイミングだと言えるだろう。グリルや前後バンパー、ホイールなど、外観はTTらしさを失わない範囲で違いが演出され、おまけにLEDポジショニングランプというアピールの強力な武器も備わる。これだけでも、ほかとは違う1台が欲しいというニーズにバッチリ応えられるに違いない。
もちろん、本来はこちらがメインだが、ほかのTTより一枚上手の動力性能も注目だ。ただし、たとえば加速力で「ポルシェ・ケイマンS」を凌ぐからといって、リアルスポーツ的な純度が急激に高まっているというわけではない。扱いやすさという面も含めて、特別身構えることなく高性能を引き出すことができることこそ、TTSの目指した世界。そう考えた場合には、その世界はしっかり完成されているし、魅力も感じられる。
反面、2.0TFSIクワトロとの違いが、絶対的な速さ以外の面でそれほど色濃くはないことに物足りなさを覚えるユーザーもいるかもしれない。この手のモデルに熱く昂揚させるものを求める向きには、あるいは価格差分の明確な優位性を欲する向きには、肩透かしと思われる可能性はある。
ようするに、見た目のアピールやパフォーマンスの稼ぎ出し方は言うに及ばず、ユーザーの意識にも一歩退いたクールさを求めてくるのが、TTSというモデルなのかもしれない。これはTTのホットモデルではなく、よりクールなTTなのだ。