「アウディRS6アバント」のシートは、オーダーメイドしたスーツのように体にぴったりフィットした。……なんてことを人生で一度しかスーツをオーダーしたことのない自分が書くのも僭越ですが、とにかくRS6専用のスポーツシートは、うっかりすると自分の体が支えられていることに気付かないくらい絶妙にホールドしてくれる。レザーの肌触りもキメの細かいもので、腰掛けただけで手間暇かけて作ったクルマだということが伝わる。
インパネのスターターボタンを押してエンジンを始動する前に、グランドピアノみたいに艶々と黒光りするインパネに一礼。こういう仕事をしていても5リッターのV型10気筒ツインターボなどというエンジンには滅多にお目にかかれない、ありがたいもの。ホント、「有難い」という漢字の意味そのままだ。
けれども、ドライバーの緊張と過度の期待とは裏腹に、V10ツインターボはフツーに始動する。フツーじゃないのは低くて重厚な排気音が腹に響くことだ。ただし窓さえ閉めてしまえば車内は静かで、「ボーボー」という音は遠い世界の出来事になる。
580psという最高出力が頭にあると、ついビビってアクセルを踏む足が縮んでしまうけれど、心配ご無用。市街地の20km/h、30km/hの速度域でのV10ツインターボは気難しさのかけらもない、上品な手触りのエンジンだ。2000rpm以下でもアクセルを踏めばスーッと加速して、「わんぱく相撲」でちびっこ力士を抱え上げる朝青龍みたいな余裕をみせてくれる。けれども高速道路に入ってアクセルを踏み込むと、朝青龍は本気になる。