よく晴れた冬の朝、われわれ取材班は銀座のすみっこで「キャデラックCTS-V」の撮影の準備を進めていた。不景気の話はみなさんがあちこちで書いたりしゃべったりしているので、ここでは繰り返しませんが、アグレッシブなフロントマスク、ぴかぴかのワイヤーメッシュのホイール、スーパーチャージャーを収めるためにマッシブに盛り上がったボンネットなど、このクルマは今、東京で一番羽振りが良さそうに見える4ドアセダンではないか。
すると、身なりのいい老紳士がつかつかと歩み寄ってきた。穴が開くくらい見つめてから、慇懃な口調で「これは新しいキャデラックですか?」と尋ねる。「そうです」と答えると、深くうなずいてインテリアをしっかりと確認、「ありがとう」と言い残して立ち去っていった。
キャデラックを愛用していたことで知られているジャイアント馬場さんがご存命であれば、今年で71歳になっていたはず。おそらく前出の紳士も同じくらいの世代だとお見受けした。
「キャデラック」というブランドに憧れを抱く年齢層は日本でもアメリカでもかなり高くなっており、一時期のアメリカではオーナーの平均年齢が60歳を超えたという。そこでキャデラックはユーザーの若返りを図っており、このギラギラした「CTS」シリーズもそうしたクルマ作りの一環だ。
で、天国の馬場さんにもさきほどの紳士にも「キャデラックもずいぶん変わりましたよ」と伝えたい。
「キャデラックCTS-V」とは、2007年にフルモデルチェンジを受けた「CTS」に、この1月より追加された最強バージョン。搭載する6.2リッターのV8エンジンは、スーパーチャージャーの助けも借りて564ps(!)を発生する。ちなみに、「メルセデス・ベンツC63AMG」の6.2リッターV8(こちらは自然吸気)は457ps。
ゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパンのHPでは、“THE FASTEST V8 PRODUCTION SEDAN IN THE WORLD”と高らかにブチ上げ、「ドイツのニュルブルクリンクで打ち立てた量産セダンとして世界最速レベルの記録」「キャデラック史上最強の」などという勇ましいフレーズが並ぶ。アメリカンV8の高性能バージョンというと大らかなモデルを想像しがちであるけれど、CTS-Vはそうではなかった。