クロースしたギアは、幅広い回転域を使うことなく、繰り返される変速リズムに酔うことができる。回転合わせもクラッチミートも現代の電子制御技術は完璧で、繋がりはスムーズにして俊敏、自分の意思通りに変速できる。この手の電制油圧クラッチ車にありがちな、船の櫓を漕ぐような“Gの段差”は少なく、ボディ慣性の軽さや駆動系/マウントの剛性の高さも伺える。
これだけパワー(426psと48.0kgm)があって重量も1710kgと(比較的)軽いとなれば、オートモードでも右足の踏み加減ひとつで自在になる。
AT車では、左足でブレーキを踏んで待つなど両足を運用する方がスムーズな運転にも繋がり、踏み間違う危険性も少ないわけだが、この場合でもエンジンがストールするような悪癖はなく、パドルを使ってエンジンブレーキと併用する際のリズムを狂わすようなことも無い。
一度だけ、2ペダル車にしてはありえないはずの「エンスト」も経験した。撮影作業中で登り坂の信号待ちにおいてだった。長めと感じてギアを入れ放しでクラッチを踏んだ状態より、ギアを抜いてNで待った方がよかろうと判断したのだが、次の発進時にエンジン回転がなぜかラフになって止まってしまった。
こんな時だけは自分の足でクラッチを踏めるMTの方が安心に思える。しかし、これ一度きりだったから何らかの不具合が偶発したのかもしれない。
アストン・マーティンは、創業以来90年間で約45000台が生産され、そのうちの80%がいまだ現役という。手作りで丁寧に造られたものは大切に扱われる好例だろう。そのアストンのなかでも、この「V8ヴァンテージ」はもっとも魅力的なモデルといえる。クルマ自体が魅力的なことは言うまでもないが、これを愛車として過ごせるライフまで夢見るならば、アストン・マーティンへの羨望はより高まるというものだ。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)