試乗会会場で「フォルクスワーゲン・シロッコ」を見てギョッとする。眼光の鋭い、薄っぺらい物体が道路にへばり付く姿は、ちょっと異様に感じた。4本の脚を大きく広げた平べったいこのクルマを、自分はどこかで見たことがあると思った。細〜い記憶の糸を辿っていくと、それはクルマではなくミズスマシだった……。
でも、試乗を終えて数日経った今、ギョッとした部分ほど強く心に残っているから面白い。後になって「どんなカッコだったっけ?」と姿形が思い出せないクルマも多い中、シロッコだったら何も見ずにフリーハンドで絵が描けそうだ。で、テリー伊藤さんの名言を思い出した。それは「ビートルズにしろビートたけしにしろ安室奈美恵にしろ、人気者はデビュー時に常識人をギョッとさせた」という言葉。なるほど、新型シロッコにも人気者の素質はあるのかもしれない。
ギョッとしたのにはもうひとつ、最近はこの手の車高の低いクーペを見かけなくなったという理由もある。フォルクスワーゲン・ジャパンの資料によれば、輸入クーペの市場規模は年間1万台ちょぼちょぼ、国産クーペをあわせても3万台には届かない。2008年の国内乗用車販売台数は280万台ちょいだから、国内乗用車市場が人口100人の村だとすると、クーペはひとりぼっちという計算になる。
ここで今度は、徳大寺有恒さんの「クルマ趣味に関しては少数派のほうが楽しい」という名言を思い出した。なんだか名言集みたいな原稿になっていますが、「フォルクスワーゲン・シロッコ」はカッコだけでなく、操作フィーリングも万人受けは狙っていない。一部の好きモノの心に響くように作られているから、クルマ好き、運転好きにはグッとくるのだ。