「アウディTT RSクーペ」は、単に「TT」の高性能モデルというに留まらず、アウディの輝かしいモータースポーツの歴史を飾る「アウディ・クワトロ」の再来とも言うべき高度な内容を備えるクルマである。
当時のクワトロは、エンジンや4WDシステムなど、スペックだけ見れば現代ではそう珍しくもないかもしれないが、当時のラリー界では向かうところ敵無しで、連戦連勝を欲しいままにした。
2.1リッターのエンジンで、出力は200ps。のちのグループB仕様の「スポーツクワトロ」でも(市販モデルで)306psだったから、数字だけみると、「なぁんだ、大したことないじゃないか」と思われるかもしれない。当時の技術ではパワーカーブはピーキーなものとなり、いわゆる“ドッカンターボ”といわれるように、低回転ではトルクが無くて、ある回転域からいきなり盛り上がったものだった。
それにフルタイム4WDも、センターデフのロックはプルスイッチでオン/オフするタイプだったし、強大な四駆のトラクションは主にコーナー脱出時の加速用と考えられ、四駆を過信してコーナーに突っ込めば、たちまち強烈なアンダーステアに見舞われた。
一度スロットルを戻すと過給圧が落ちるし、大きなターボは立ち上がりが遅いから、ドライバーのとる道は、スロットルを踏んだまま左足でブレーキングを加え、ハンドル操作は一度反対側に切ってから本来の方向へ切る、いわゆるフェイントをかけて、ヨー慣性を利用して振り回し、一度オーバーステアの形をつくり出してから、トラクションでアンダーステアにして姿勢を立て直す、というようなものだった。
こうなると両手両足は忙しく、ギアチェンジが辛くなる。かような次第で、DSGのような、パワーフローが途切れないギアボックスが開発されたのかも知れない。