その国のクルマの底力を知りたかったら、スーパーカーや高級サルーンなんか見たってダメだと思う。企業の体力は、小型車にこそ一番強く出るからである。小型車はその国のモータリングの足腰。いうなれば自動車界の「水」であり「コメ」である。日産でいうなら「マーチ」がそんな存在だ。
にもかかわらず、マーチの生産は全数が追浜工場からタイ日産に移管されてしまった。これまでも「ホンダ・フィットアリア」や「スバル・トラヴィック」のように、タイから逆輸入される日本車はあった。しかし、基幹車種で、それもすべてというのは初めての経験である。日本は食料自給率が低い国だが、クルマ自給率まで下がるのか……そんな思いが、目の前の新型マーチの見え方を複雑にする。
日本には自動車産業に直接的・間接的に従事する就業人口は約515万人いるといわれる。生産が海外に流れると“産業の空洞化”が思いのほか速いペースで進むかもしれない。まずこれが怖い。また海外生産車が売れればメーカーの業績は上がるかもしれないが、従来のようにGDPの伸び(経済成長)とは直接関係しなくなってくる。これも大いに不安だ。しかし、1ドル=88円などという非常に厳しい円高と、ウォン安と品質向上で一気に実力を上げてきた韓国車の猛追によって、日本メーカーは四の五の言ってはいられない状況となってしまった。
思えばゴーン体制下の日産は、国内の系列部品メーカーとの関係を見直して、世界でベストのサプライヤーと取り引きするという“日本離脱”の姿勢を早い時期から見せていた。その辺に課題を抱えるトヨタやホンダに比べると、日産は良くも悪くもクルマ作りにおいてひとつ先のステージに行ってしまった感がある。前置きはこの辺にして、実際に新型に触れてみることにしよう。