まずは乗ってみてほしい - 次世代レクサスの先駆けとなる「GS」が目指したものは何か。開発のポイントを聞いた。

佐藤恒治さんはうれしそうだ。抑えても抑えても、笑みがこぼれてしまうように見える。レクサス本部製品企画主査。6年越しのプロジェクトがようやく実を結ぼうというのだから、無理もない。「ヨーロッパやアメリカでも、自動車ジャーナリストの人たちを集めて、先行試乗会を行ったんです。乗る前は言うわけですよ。『レクサスだろ。乗り心地よくて静かなんだろ。でも、それだけだろ』って。ちょっとネガなニュアンスをにじませて。言葉だけでは理解できないと思っていましたからね、『とにかく乗ってくれ』と送り出しました」。-乗ったあとはどうでしたか?「『おまえの言いたいことがわかった!』」と佐藤さんが笑う。うれしそう。外には、「レクサスGS」の次期モデルが並んでいる。2011年4月のニューヨークショーにコンセプトモデルを出展し、新しいスタイリングをアピール。8月には、ヨーロッパ、アメリカに続いて日本のプレス関係者にも、その“走り”を体感する機会がもうけられた。

-フルモデルチェンジなのに、ホイールベースを延ばしませんでしたね?「はい。でもトレッドは、前40mm、後ろ50mm広げました。すると、車幅を広げたくなる。どんどん大きくしたくなる。自分もパッケージの図面を引いてるんで、設計者の気持ちが分かるんですよ。それに、もっと長いホイールベースのプラットフォームだって、社内にないわけじゃない。延ばせるんですよ、技術的には」。開発途上の葛藤もまた、いまでは喜びの源泉になっているのだろう。「ホイールベースを長くすれば、乗り心地はよくなる。分かってる。やれる。でも、本当にやったほうがいいのか? 金森(善彦チーフエンジニア)のチャレンジだったわけです。安易にその方向に進んだら、走りの切れ味、鋭さが失われてしまう。『味』がなくなっていく」。

-なるほど。いっぽう、リアのオーバーハングは延びてますね。「ラゲッジ(ルーム拡大)のためです。わずか10mmですが、効く」。佐藤さん、“うれしそうに”苦笑いする。「今のGSはですね、ちょっと引っ掛かる場合があるんですよ、ゴルフバッグが」。-世界共通のものさしですね。ゴルフバッグは。トランクルームの。「レクサスで高級ゴルフクラブに行って、スッと玄関のアプローチにつけますよね。係の人が出てきてくれて、乗員のゴルフバッグを降ろそうとする。ところが、うまく出せないことがある。しょうがないからオーナーの自分が後ろへまわって、『コツがあるんだ』とかなんとか言いつつ……。こんな悔しいことはないですよ」。

自動車の開発者にとって、10mmは巨大な数字に違いない。次期モデルでは、リアシートの居住性の向上も図られた。頭上+25mm、膝前+20mm。リアシートに座ってみると、数値以上に広く感じる。「アメリカでの使われ方を調べてみると、後ろにお客さまを乗せる人が少なからずいる。自由業、不動産関係、販売などの仕事に携わるオーナーの人たちです。頻度は高くない。でも、その一瞬が、その方々にとってすごく大事な瞬間だったりする。ちゃんともてなせないといけないんです」。GSを開発する難しさがよくわかる。ドライバーだけが幸せなスポーツセダンでは、クルマが成り立たないのだ。

「エントリーチケットというんです」と佐藤さん。このクラスのクルマになると、走り、ユーティリティといった基本要件は、満たしていて当たり前。その上で、あえて選択していただける要素は何なのか。次期モデルの開発がスタートしたころ、佐藤さんはその「何か」の手がかりを得ようとドイツに飛んだ。現地のスタッフに「何を変えるべきか」を問うたところ、すぐに答えが返ってきた。「言葉はいらない。とにかく乗れ」。アウトバーンのわきには、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、そしてレクサスGSが並んでいたという。「企画会議ではなく、道の上で『何か』を見つけなければいけなかったんですね」と佐藤さん。どうやら「商品企画」という職務に忍び寄る数々の誘惑を排し、初心を貫徹できたらしい。自動車ジャーナリストが乗って走り出す次期GSの後ろ姿を、佐藤さんがうれしそうに見送る。いよいよ発売し、お客様にも同じように「まずは乗ってみてください」と言える日が近づいている。佐藤さんの笑顔は、大きくなるばかりだ。