第40回:9月11日「ユーロトンネル」(後編)

2007.07.25 エッセイ

第40回:9月11日「ユーロトンネル」(後編)

『10年10万キロストーリー4』刊行記念!

ユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。ポルトガルからフランスに戻り、ユーロトンネルで、パリからロンドンへ向かう。

まもなく発車

イギリス入国のためのパスポートコントロールは順路がうまくできていて、巨大な免税品店の前を通るようになっている。
そこでカルディナを停め、中に入ってみると、ワインをはじめとする各種の酒と食品、タバコ類をたくさん売っている。かかる税金がフランスとイギリスでは大きく異なるから、無税のここで買っていけというわけだ。
木箱詰めされたワインを買っていく人が少なくない。これから訪れるロンドンの友人のためにワインを買おうかと考えたが、一緒に酒を飲んだことがないことを思い出したので、フォアグラの瓶詰めとキャンディを手土産に買う。

次は、イギリスのパスポートコントロール。「イギリスに行く目的は?」
−−友人に会うため。
「どこから来ました?」
−−東京から。
「このクルマで?」
−−ええ。
「なぜ、飛行機でなくて、クルマで来たのですか?」
−−未知のロシアを通ってユーラシア大陸を横断してみたかったからです。
「どんな旅でしたか?」
−−長く、予期しないことがたくさん起こりました。でも、とても面白かった。
「なるほど。それはよかった」
業務然としているフランスのパスポートコントロール職員の質問と較べて、イギリスの職員は明らかに関心があるようで、インタビューされているようだった。

すこし進んで、荷物チェック。ここも素通しのクルマがほとんどだが、カルディナはテールゲートを開けさせられた。ロシアの“タカリ警官”とは違って、さらりと見ていないようで肝腎のところはしっかり押さえている。
端に立てかけて見にくくなっていたガソリン満杯のジェリ缶が見付けられた。ユーロトンネルのホームページにはガソリンなどの揮発性燃料の携行は禁じられていたはずだが、何も言われなかった。僕の右隣で停められていた、イギリスナンバーの赤い「アウディ80」は、後席とトランクに、隙間がないほどワインの木箱を押し込んであった。

係官に促されて進んだ先に、プラットフォームが見えた。当然のように、ロシアはスコボロディノでの乗り込み場所とは大違い。広く清潔なプラットフォームから段差なく列車に乗り込める。職員の会釈まで付いている。
空いている列車で、先に行くクルマとの間隔がずいぶん広い。ようやく前の「ルノー・エスパス」に追い付く。列車の中は明るく、左右のドアを同時に開けられるほど幅も十分ある。おまけに、エアコンが十分に効いている。ほどなくして、発車。


第40回:9月11日「ユーロトンネル」(後編)

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第40回:9月11日「ユーロトンネル」(後編)

これぞ文明!

エスパスにはタイドアップしたスーツ姿の男性が4人乗っており、列車内を行ったり来たり。隣の車両に行けないこともないが、行っても何もない。トイレが2、3両にひとつあるだけ。乗車する前からわかれていた「1等車」には、2階にラウンジ部分らしきものがあるが、そこまで偵察に行くことはできなかった。
すぐにトンネルに入り、乗車時間は40分間。ドーバーの隣のフォークストンという街の駅に着く。とはいっても、駅の外の様子が見えるわけではない。列車から降りるとコンクリートウォールに囲まれた広い通路が続き、自動的に高速道路の「A20」に入る。ここから北西に進めば、ロンドンに着く。

フランスの右側通行から、イギリスの左側通行に変わるわけだが、列車から降りたクルマは、選択の余地なく A20の「ロンドン方面行きの車線」に導かれるので、混乱するようなことは何もない。ペリフェリックからA16に入るところでは予想と異なっていたが、 A16にのってからは、ユーロトンネル「ルシャトル号」搭乗手続き→出国→入国→搭乗→A20という流れは、みごとなまでにスムーズだった。これぞ文明!

A20 を1時間すこし走って、A25を北上する。A25はロンドンの外側を大きく周回しており、反時計廻りに進む。A25は帰宅ラッシュが始まっており、滞り気味だ。これからロンドン北西部に住む友人F氏を訪ね、明日以降、帰国準備作業を行う。長かった旅も、ようやく終わりを迎えようとしている。
渋滞中のA25を進みながら、“大きな感慨”がこみあげてきてよさそうなものだが、不思議と清々している。いつものように、東京からロンドンまで飛行機で来れば、距離感や、異国に滞在している気分が際立つのだろう。だが、なにせ50日かけて陸と海伝いに来たものだから、変化が小刻みで、そういった気持ちにはならない。拍子抜けと言ってしまえば、ちょっと拍子抜けかもしれない。だが、「いま、こうやってA25を問題なく走っている事実がすべてだ」という気持ちで満足している。
F氏の家は、もうすぐだ。

(文=金子浩久/2003年10月初出)

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金子 浩久

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