「デリバリーバン」の光と影

2007.07.15 自動車ニュース
「メルセデス・ベンツ・スプリンター」
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影

「デリバリーバン」の光と影

近年ドイツでは、配送用のデリバリーバンが社会問題となり、アウトバーンに新たな速度制限が設けられたという。ことの真相を現地からリポートする。

■速度無制限は「限定付き」

ドイツの高速道路「アウトバーン」は、速度無制限の区間があることで知られる。
ただし、それは乗用車に限ったこと。3.5トン以上のトラックに対しては、80km/hの制限速度が設けられている。スピードリミッターの装着義務と警察の厳しい取締りにより、トラックはだいたい時速90キロ程度で走行。日本でたまに見かけような、猛スピードで走る暴走トラックに出会うことはない。

「フィアット・ドゥカト」
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影
「イヴェコ・デイリー」
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影
「フォルクスワーゲン・クラフター」
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影

■“乗用”運搬車「デリバリーバン」の台頭

ところが、1990年代に入りターボディーゼルエンジンの性能が向上すると、従来のトラックにかわって、スピードが要求される運搬車にはデリバリーバンが使われるようになった。デリバリーバンを乗用車として登録した場合、スピード制限が設けられないからだ。

代表的なのは、1995年にデビューしたメルセデス・ベンツの「スプリンター」(日本名「TIN」)。ドイツでデリバリーバンの代名詞になったほど普及した。

その他に、フィアットの「ドゥカト」、オペル「ヴィヴァノ」、ルノー「マスター」、同「トラフィク」、イヴェコ(フィアット系の商用車メーカー)の「デイリー」などがある。フォルクスワーゲンの「クラフター」は「スプリンター」の姉妹車だ。

スケジュール厳守の宅配業者にとってはスピードが命。うしろからものすごいスピードで近づいて来ては、あっという間に追い越していく。

デリバリーバンが使用しているタイヤは、許容速度が170km/hまでのものが多く、車体に160km/hでリミットがかかる場合もあるが、それさえなければ、180km/hは軽く出る。

アウトバーンを走行するドライバーに恐怖感を与えるのが、このデリバリーバンなのだ。

ドイツで主流のデリバリーバン、「メルセデス・ベンツ・スプリンター」。
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影

■暴走バンを規制せよ

現在、ドイツで販売中の「メルセデス・ベンツ・スプリンター」は、258psのガソリンエンジンまであり、一般的なV6のターボディーゼルは3リッターで184ps。充分なパワーを備えたうえに車体が軽いため、乗用車並みの性能が得られる。ただし、リヤ・サスペンションにはリーフスプリングを使われる。貨物を積載していないクルマがオーバーステアに陥り大事故になったニュースが頻繁に報道され、スプリンターは社会問題化した。

このような状況の下、デリバリーバンのユーザーが最も恐れているのが、速度制限の導入だ。

2003年にはスピード違反に関する裁判が行われ、「総重量3.5トン以上のデリバリーバンは乗用車として登録されていても、事実上はトラックであり、その速度制限が適用される」という判決が下された。それ以来、3.49トンの車両が主流となり、現在はこれに対しても時速120km/h程度の速度制限の導入を求める声が絶えない。

スプリンターの車体に書かれた、「Rent-a-SafetyCar」の文字。
ドイツ経済を支える「デリバリーバン」の光と影

■安全なイメージづくりに躍起

ダイムラー・クライスラーにとって、イメージの悪化は問題だ。以前のウリは「速さ」だったが、今現在、スプリンターは「安全性」が強調される。
「スプリンター」のパンフレットには、クルマの性能諸元欄に当たり前のように表記される最高車速の項目がない。その代わりに、「経済性と安全性」や、2006年のフルモデルチェンジで導入された横滑り防止機構「アダプティブESP」 のことがうたわれている。

ここ最近、スプリンターのレンタカーの車体には、メルセデスの広告が目立つようになった。F1レースにセーフティーカーを提供しているダイムラークライスラーが考えたスローガンは「レンタ・セーフティーカー、アダプティブESPの新スプリンター」。

世に出したわが子のイメチェンに、だいぶ手を焼いているようだ。

(文と写真=廣川あゆみ)

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