第28回:8月26日「サンクトペテルブルクへ」(後編)

2007.06.24 エッセイ

第28回:8月26日「サンクトペテルブルクへ」(後編)

『10年10万キロストーリー4』刊行記念!

サンクトペテルブルク目前、警官との戦いは終わらない。ロシアでは、こんなことまで……!?

アレクセイの“悪知恵”

数日前から気になっていた、カルディナのエンジンの咳き込みがひどくなってきた。2000rpm前後でスロットルペダルを少し戻すと、咳き込むように大きく振動する。ガソリンが適正量エンジンに供給されていないか、もしくはプラグから火がきちんと飛んでいないか。原因は、そのあたりだろう。

サンクトペテルブルクまであと300km辺りの交差点で、また警官に停められた。
通訳のアレクセイによれば、「2kmぐらい前の、追い越ししてはイケナイところで追い越ししたから、免許証を3日間警察で預かるといっています」
追い越し禁止線があったと警官は主張するが、禁止線なんかよりも、追い越し、追い越されの連続である。神経のほとんどは、対向車線で追い越しをかけるクルマにしか払っていないというのが正直なところだ。警官に連れられて、アレクセイと一緒にパトカーへ連れ込まれた。
「これからサンクトペテルブルクへ向かうので、金曜日まで運転できないのは困ります。何か解決方法はありませんか」
「本官は署長ではないので、わからない」
どうやらこの警官は、ステッカーで誤魔化せそうにない。
「日本人か。ロシア人だったら、1ヶ月間免許証停止だ」
オレは本気だゾといわんばかりに、違反調書のようなものにボールペンで記入を始めた。
「日本で追い越し禁止を破ると、1000円の罰金を支払わなければなりません」とアレクセイ。
「君は日本に行ったことがあるのか。それは何ルーブルのことだ」「はい、日本に留学していました。1000円は、約300ルーブルです。300ルーブル支払いましょうか?」
警官は何もいわない。ただ、調書をダッシュボードの上に置いた。
財布から100ルーブル札を3枚取り出して渡す。
「“これからは注意して”と、このオマワリさんはいっています」
アレクセイが機転を利かせて、ワイロを渡すように持ちかけてくれた。地図は読めないが、悪知恵は働く。

建都300周年の大都市

ラーダ・サマラのパトカーには、しきりに無線が入ってくる。ロシア語はわからないが、クルマのモデル名はわかる。どうやら、追い越し禁止線を越えたクルマを無線で伝えてきているらしい。
パトカーから出てアレクセイに聞くと、白い「ジグリ」を囮役に仕立て、上り坂で追い越しをかけたくなるようなところを走らせているらしい。
「無線で“779番のフォルクスワーゲンが引っかかったゾ”とかいってました」
そういえばさっき、遅くて白いジグリをトラックに続いて抜いた。そのトラックも捕まっていたっけ。ロシア警察も、ワイロ欲しさになかなか考えるのぉ……。
このまま引き下がるのも悔しいので、写真を撮らせてくれと頼んだら、パトカーから降りてきてポーズまで取ってくれた。いったい、どこの国にワイロをせびった相手に写真を撮らせる警官がいるというのだろう。

深夜0時過ぎに、サンクトペテルブルク到着。2003年で建都300周年を迎えるだけあって、ヨーロッパ的な街並みだ。ツェントル(中心)までなかなか辿り着けないほど広い。
ホテル探しに苦労して、ようやく4軒目のホテルにチェックインすることができた。収容所(入ったことないけど)みたいに暗く、古くて不潔だ。周囲にカフェもないので、向かいの“牢屋キオスク”に行く。牢屋キオスクとは、粗末な小屋のガラス窓越しに商品を選び、鉄格子が収まった小さな受け取り口から代金と商品を受け渡しする、ロシア中にある売店のことだ。ビール1本ずつとポテトチップ小を分け合って、本日の夕飯代わりとした。

(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

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金子 浩久

金子 浩久

『10年10万キロストーリー4』
(金子浩久著)
1台のクルマに、10年もしくは10万キロ以上乗ってきたオーナーを、金子浩久が取材。クルマとヒトの生活を、丁寧に紙の上に載せていきます。『NAVI』人気連載の単行本化! →二玄社書店で買うアマゾンで買う