第96回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その8:圏央道をめぐる裁判(矢貫隆)

2007.05.25 エッセイ

第96回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その8:圏央道をめぐる裁判

一帯が「峰尾さん」

「峰尾豆腐店に寄って寄せ豆腐を買いましょう。裏高尾の地下水を利用して作った豆腐なんですが、これが実に美味い。東京でこんなに美味い豆腐が作れるんだなと感心するほどです」
詳しいな。
「妻が言ってました。峰尾豆腐店の寄せ豆腐を2丁頼む、と」

じゃ、キミの奥さんは、この辺りの家の多くが「峰尾さん」だという事実も知っているのか。
「もちろんです。妻は何でも知っています。裏高尾町は駒木野、荒井、摺差(するさし)、小仏の4つの町会から成っているのですが、摺差には40〜50軒の家があり、そのうち新しく移り住んできた数軒を除けば、みんな峰尾さんだという話でしょう?」

キミの奥さん、いったい何者なんだ!?
「それは秘密です。ただ、美人とだけは言っておきましょう」

峰尾章子さんの自宅はやはり摺差の旧街道沿いにある。亡くなったご主人、峰尾幸友さんは、圏央道建設反対に最初に声を上げたリーダーのひとりだった。

石垣と植木が敷地を囲い、階段を上がると、すぐ横手には30年生くらいの木が植えられた庭がある。この家を訪ねるたびに田舎の実家(東京出身だけど)にでも戻ったような気分に浸ってしまう。

騒音、大気汚染

「ドシンッ」
しかし、この音と振動が、と思う。北側の窓が震えた。
「何ですか?!」
物知りの豆腐好きの美人の妻から聞いてないのか。中央道だよ。橋になっている箇所のつなぎ目の部分を大型車が通ると、そのたびにあの音と振動が家のなかに伝わってくる。

大気汚染もひどい。
「中央道を走っているドライバーは、裏高尾町の人が被っているこういう現実は知りませんよね。それに加え、今度は圏央道のジャンクションができるわけでしょう?」

ジャンクションの工事は進んでいるみたいですね。
峰尾・「6月に開通予定だと言ってます」
裁判の進み具合は?
「裁判って?」
高尾山の自然を守る市民の会が中心となって、高尾山にトンネルを掘らせないための事業認定取消しを求める裁判とか、圏央道工事の差し止め裁判とかをしている。妻から聞いていないのか、こんな大事な話を。
「妻を責めるのはやめて下さい」

峰尾・「圏央道工事差し止めを求める民事訴訟は、もうすぐ判決がでます。6月15日、午後4時から東京地裁八王子支部の401号法廷です」

イベントの予定は?
峰尾・「今年で23回目になる天狗のパレードが7月29日にあります。見にきて下さい。12時から裏高尾湯の花梅林がスタートの会場になります。雨天決行です」

(つづく)

(文=矢貫隆)

裏高尾に入ると、大自然から一変、巨大な道路と線路が目に飛び込んできた。
第96回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その8:圏央道をめぐる裁判(矢貫隆)
民家の真後ろに中央道とJR中央線。騒音は想像以上にすごく、振動に加え空気汚染も住民を苦しめている。
第96回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その8:圏央道をめぐる裁判(矢貫隆)
右を見れば牧歌的な風景、そして左を見れば、建設途中の圏央道+中央道のジャンクション。異様な光景だ。
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矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、 多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。 自動車専門誌「NAVI」(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同「CAR GRAPHIC」(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 「自殺-生き残りの証言」(文春文庫)、「通信簿はオール1」(洋泉社)など、著書多数。