第93回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その5:圏央道と、涸れた滝(矢貫隆)

2007.05.14 エッセイ

第93回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その5:圏央道と、涸れた滝

裏高尾方面に見えるのは……
第93回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その5:圏央道と、涸れた滝(矢貫隆)

高尾山にトンネルを掘る

「高尾山の自然はこれからも守っていかないといけませんね」
そうなんだけど、圏央道計画がね……。
「首都中心部から40〜60kmの位置に計画されている延長約300kmの環状の自動車専用道路のことですね」
パンフレットを読んだのか?
「はい。次のようにも書いてあります」

「圏央道は、東京郊外の都市と都市を結び、交通の流れをスムーズにします。また、沿道の自然環境は生活環境を大切にしながら建設を進めています。そして、東名高速、中央道、関越道、東北道、常磐道、東関道などの放射状の幹線道路と結ばれ、東京湾アクアライン等ともつながって、首都圏の広域幹線道路網を形成します」

「これが何か?」
計画では、高尾山にトンネルを掘って圏央道を通すことになっている。
「……」
どうした?!
「絶句したんです。そんなことしていいんですかね」

高尾山は、その尾根づたいに深沢山、小仏峠、景信山、陣馬山と峰をつないでいるのだけれど、計画されている圏央道のこの付近のルートは、国史跡である八王子城跡のある深沢山に2本の直径10メートルのトンネルを通し、そこを抜けたところにある裏高尾町を跨いで高尾山にトンネルを掘るというものだ。

裏高尾町の上空には、中央道とのジャンクションも建設される。

「トンネルなんて掘ったら、高尾山の植生が壊滅的なダメージを受ける心配があるんじゃないですか?」

国土交通省は「環境に配慮して建設する」とか「最新の工法だから大丈夫」とか言っているようだけど、現実はそんな簡単なことじゃないと思うよ。

中央自動車道。クルマがひっきりなしにとおっている。
第93回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その5:圏央道と、涸れた滝(矢貫隆)

井戸水が減り、滝が涸れた

94年には、実際に心配された事態が起こっている。

その年の6月に建設省(当時)相武国道事務所が深沢山ボーリング調査を実施したのだが、その調査の後、それまで50年間、ただの一度としてなかった井戸の水位変化が明らかになった。
それは420年以上も前に八王子城が築かれるときに掘られたという由緒ある井戸。その水量が、調査前の約3分の2に減少してしまった。

「ボーリング調査が原因?」
それしか原因は考えられない。直径わずか5cmの掘削孔によって井戸水に影響がでてしまったということなのだ。

実際にトンネル工事が始まると、今度は、同じ八王子城跡にある「御主殿の滝」の水が涸れてしまった。
国土交通省は「トンネル工事が原因ではなく、少雨傾向のせいだ」と言っているが、僕は信じていない。
これまで山に登るたびに、トンネル工事が始まったとたん水場が失われてしまったという現実を見ているしね。

「とにかく高尾山にトンネルを掘らせるわけにはいきませんねぇ」
熱いぞ、A君。
「ボォ〜ッ」
燃えてるな。

(つづく)

(文=矢貫隆)

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矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、 多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。 自動車専門誌「NAVI」(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同「CAR GRAPHIC」(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 「自殺-生き残りの証言」(文春文庫)、「通信簿はオール1」(洋泉社)など、著書多数。