第295回:年末ミニスクープ! ドイツの底力ここにあり
新型AMG 6.3エンジンはカレラGTの兄弟だった!?(小沢コージ)

2006.12.15 エッセイ

第295回:年末ミニスクープ! ドイツの底力ここにあり新型AMG 6.3エンジンはカレラGTの兄弟だった!?

■ブロックから新しくなった初AMG専用エンジン

いやもう年末だよ。早いよなぁ。今年は人生初の地上波TV出演があったとはいえ、実質なんにもやってないよ〜ってなキブン。
ってなわけで今回は時間を取り戻すべく今まで忘れてた……じゃなかった忙しさの余り置き去りにしてきた珠玉のクルマネタをご披露。

まずはミニスクープ! 新型AMGの6.3リッターV8エンジンが実はポルシェ・カレラGTの兄弟だった!? ってなお話。かなり遠縁っちゃ遠縁……いや、近いっちゃ近いのか?

舞台は先日行われたAMGベンツの海外試乗会。キモはいわずと知れたオール新設計の6.3リッターV8エンジンだ。
要するにエンジンチューンで名を馳せたAMGが、メルセデス傘下に入ることによって、初めてブロックから新しいAMG専用エンジンを作ることができたのがウリで、ホントは排気量6.2リッターなんだけど韻を踏んで伝統の「6.3」と呼んでたりもする。

エンジン開発リーダーのBernd Ramlerさん。正真正銘の“エンジン開発バカ”です!
エンジン開発リーダーのBernd Ramlerさん。正真正銘の“エンジン開発バカ”です!
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■エンジン開発リーダーは“クルマバカ”

ってな具合に気合入ってるユニットなんだけど、そこで俺はエンジン開発リーダーのBernd Ramlerさんとマジメに話をしていた。

これが一見コワモテだが話すと「ライナーコーティングが画期的なツインアークワイヤースプレー方式で硬度がグレーキャストの2倍でどうたらこーたら」「タペットバレルがレーシング技術で○×△」とどうにも話がしつこくて濃密でオマケに熱い!
俺の大好きな“クルマバカ”の匂いがプーンとするんで前職を聞いてみたら元々はレーシング部門にいたという。しかもその経歴が凄い!

コージ: レースと言ってもいろいろありますが……
ベルンド: 元々はベンツの人間で、88年から95年まで最初のDTMマスターズをやってました。
コージ: というとCクラスとか?
ベルンド: そうです。DTM用のV6エンジンを作っていて、94年に作ったのは2.5リッターで500馬力。リッター当たりF1に匹敵する出力を出してました。あれはあれで気に入ってます。
コージ: その次は?
ベルンド: 次はポルシェに7年間いたんです。
コージ: へぇ、なに作ってたんです?
ベルンド: カレラGT。
コージ: ええっ、カレラGT!?  911カレラのカレラじゃなくってあの元はルマン用がベースだっていう5.7リッターV10エンジンを作ったわけ? しかも開発チーフ?
ベルンド: そうですそうです(笑)。
コージ: じゃあ超エリートじゃないですか。エリートっていうかエースエンジニアっていうか。
ベルンド: ……(笑)。
コージ: で、今はベンツっていうかAMGにこの6.3プロジェクトのために戻ってきたんですね。ところでカレラGTのV10とこの6.3ってなんか共通性あるんですか?
ベルンド: 具体的にはありません。コンセプトが違いすぎますから。
コージ: でもなんかあるでしょうが。
ベルンド: 6リッターオーバーの大排気量エンジンなのに、とにかく7200回転の超高回転までキレイに回るというのが特徴です。つまり大排気量としては極端にショートストローク。それがどういうことかというとボアピッチが自動車用としては破格に大きく、オートバイ用と同じくらいあるんです。
しかし、そうするとノイズをはじめいろいろ弊害が出てしまう。そこでそれをメルセデス・ベンツ、AMGベンツに相応しいクオリティにすべくいろいろ工夫しました。
具体的には軽量ピストンを作るべく、マーレーと共同開発しましたし、クランクの間隔が2ミリしかないなど精度が非常に高いんです。他にも数え切れない。
コージ: なーるへそ。言ってみればレーシング技術と市販車技術のいいトコ取りですね。
ベルンド: そう言えなくもないかもしれません。

クランク間隔、僅か2ミリの軽量ピストン。
クランク間隔、僅か2ミリの軽量ピストン。
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■趣味でルマンに勝っちゃった!!

コージ: ところで量産車エンジンばっか作ってると、レーシングエンジンを作りたくなりません?
ベルンド: 大丈夫ですよ。既に作ってますから(笑)。98年にルマンで優勝したポルシェ911GT1は私がやったんです。
コージ: えっ、仕事で?
ベルンド: いや、プライベートで(笑)。

うーん、バカです正真正銘のエンジン開発バカ! 一応プロフィールをご紹介すると、アーヘン工科大学の機械工学の修士の称号を持ってらっしゃって、「仕事もエンジン、趣味もエンジン」だそうな。
こんな人がポルシェだのメルセデスだのもしやBMW? だのなんても回って、トップクラスの量産車やらレーシングカーの開発をしてるわけだから、そりゃドイツのクルマがキモチ良くなるわけだよなぁ。

まるで第一期ホンダF1監督の故・中村良夫さんが実はゼロ戦作ってたり、スバル360開発者の故・百瀬晋六さんが同じく中島飛行機出身だったようなエピソード。

ちなみにベルンドさん曰く「このエンジンは特に大重量のメルセデスMLクラスに載せると真価がわかります。あの低速から高速まで途切れのない伸びのある加速は他にありえません!」だってさ。
ぜひ一度乗ってくださいませよ。AMGファンの方々!

(文と写真=小沢コージ/2006年12月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』