【スペック】T:全長×全幅×全高=3395×1475×1535mm/ホイールベース=2360mm/車重=810kg/駆動方式=FF/0.66リッター直3DOHC12バルブターボ・インタークーラー付き(60ps/6000rpm、8.5kgm/3000rpm)/価格=114万2400円(テスト車=同じ)

スズキ・セルボT(FF/4AT)/TX(FF/4AT)【試乗速報】

ハイトワゴンに飽きていませんか? 2006.11.22 試乗記 スズキ・セルボT(FF/4AT)/TX(FF/4AT)……114万2400円/124万7400円スズキのスペシャリティ軽自動車「セルボ」が、復活した。1977年のデビューから数えると5代目となるモデルは、コンパクトカーに対抗できるだけの実力を蓄えていた。

内も外もフランス

スズキには、どうも最近フランスの風が吹いているらしい。「スイフト」が登場したときにも思ったのだけれど、エンブレムをライオンか何かに換えれば、オッ、新しいフランスの小型車か、などと勘違いしそうな外観なのだ。
この「セルボ」は前から見ればツリ目顔がプジョーを髣髴とさせるし、後ろから見てもきれいなボリューム感がオシャレ度をアピールしている。リアクォーターからの眺めがベストだろう。ルーフラインからリアウィンドウ下端につながるラインが心地よい曲線を描き、サイドのキャラクターラインが生み出す陰影は軽とは思えない立体感だ。側面後端で外板が鮮やかな切り替えを形作るのも、この角度からだとはっきり見極めることができる。

室内にも、「フランス」があった。インストゥルメントパネルやドアの内張りの樹脂は、表面の模様がまるでルイ・ヴィトンのエピではないか。本物だったら車両本体より高くなってしまいそうなほど、ふんだんに使われている。そして、フロントからサイドに回り込むようにクロームメッキ調のモールが回り込むところなど、プレミアムサルーンばりだ。そのあたりは少々こけおどし的なディテールとも言えるけれど、ダッシュボードの上になだらかな稜線が描く上品で落ち着いた造形は、軽自動車という言葉から連想する安っぽさ、子供っぽさとは一線を画している。

明らかに、スズキのデザイン力は、このところ長足の進歩を遂げたように感じられる。言っては悪いが、以前はとにかく安く作ったな、という感想を持つこともあったように記憶する。特に方針が変わったとかの事情があるわけではなく、デザイナーが力を発揮する土壌が整ってきたということらしい。デザインが重要な性能であることを、上層部も理解したということなんだろう。なぜかフランス味になってしまうのは不思議だけれど、エクステリア、インテリアともに劇的にレベルが向上していることは大歓迎である。

写真をクリックするとシートが倒れるさまが見られます。





キーレススタートが全グレード標準

セルボは、軽の規格が拡大された1998年まで、4代にわたって販売されていたスペシャリティの香りをたたえたモデルだった。8年ぶりに復活するからには、その資質は引き継いでいる。スタイリッシュ、スポーティ、パーソナルが、キーワードとなっているのだ。もちろん、ハイトワゴン全盛の時代を経た後なのだから、そういったことを実現するために室内空間に関しては諦めてもらう、ということは成立しない。限界まで空間を創出するテクニックは自家薬籠中のもので、広さは充分に確保されている。前席、後席の広さはもちろんのこと、リアハッチを開けたら思いがけず真っ当なスペースがあったのには感心した。また、以前は2ドアクーペのイメージが強かったけれど、今回は用意されるのは4ドアモデルのみである。

最近は軽でも贅沢装備が当たり前のようにつけられていて、セルボもキーレスエントリー、キーレススタートが全グレード標準となっている。Dレンジに入れて走り出すと、発進はなかなか力強い。しかし、しばらく走って急加速を試したりしていると、どうももの足りない。最近の軽のターボは驚くほど速いものがあるのだが、このクルマはさほどのパワー感がない。戻ってからスペックを見てみたら、最高出力はいわゆる自主規制値ギリギリの64psではなく、60psに抑えられているのだった。トランスミッションはマニュアルモードがあるもののコンベンショナルな4ATで、流行りのCVTではない。加速フィールの躾けは、鋭さよりも安心して乗れるように方向付けられている。

スペシャリティということでは、「ダイハツ・ソニカ」が先行して発売されていた。低重心ボディにターボを組み合わせ、明確に走りに焦点を合わせたモデルだったが、セルボはもう少し広いレンジに訴求点を設定しているようである。走りもそこそこに、オシャレ感も忘れず、広い空間も確保する。ハイトワゴンに飽きたユーザーの受け皿として、どちらかというと安全な戦略なのかもしれない。





【スペック】
TX:全長×全幅×全高=3395×1475×1535mm/ホイールベース=2360mm/車重=810kg/駆動方式=FF/0.66リッター直3DOHC12バルブターボ・インタークーラー付き(60ps/6000rpm、8.5kgm/3000rpm)/価格=124万7400円(テスト車=同じ)

シートも乗り心地に貢献

試乗会場となった幕張は、路面にドライバーの注意を喚起するための凹凸を施した場所が至るところにある。そこを通過した時、腰に伝わってくる振動に妙な落ち着きがあることに気づいた。軽いクルマに特有の、収まりの悪いフィールがないのだ。コーナーでの振る舞いも、しっとりとして品がある。全体に、軽自動車らしいバタバタとした浅ましい動きが感じられず、リッターカーとも思える重々しさがある。エンジニアに聞くと、サスペンションの動きをよくしたという答えが返ってくるのだが、それであの重量感を演出できているのならたいしたものである。

乗り心地がよかった原因には、シートの出来も関係していたように思う。セミバケットのフロントシートは充分な肉厚を持っており、サポート性を高めつつも体をやんわりと包んでくれる。このあたりも、以前のスズキの軽自動車ではあまり重視されていなかった部分で、各部署の連携を強めてクルマ作りを行っていることが感じ取れる。ただし、比較すると後席はどうしても貧弱で、あまり座りたいとは思わない。基本は2人乗りという考え方なのだろう。

ダイハツの「ムーヴ」の開発陣は、スズキのクルマ作りと競争し、切磋琢磨することで軽自動車はここまで進化してきたのだ、と話していた。生産台数が200万台を超えんとする状況は、決して経済状況の低迷だけを原因としているのではなく、このところの軽自動車の性能向上によるところが大きいと思う。デザインの面でも、動力性能やハンドリングの面でも、恐ろしくキビシい制約の中で驚くべき成果をあげているのがこのジャンルなのだ。セルボは一部の層に向けては、登録車のコンパクトカーに対抗するだけの魅力を持っていると思う。これまで圧倒的な差をつけられていたスタイリングと乗り心地の面で、少なくとも比較の土壌に上るだけの実力は身につけたと言える。

(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年11月)

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