第287回:新型ダイハツ・ムーヴ試乗
こりゃスズキ会長怒りまっせ〜!?(小沢コージ)

2006.11.03 エッセイ

第287回:新型ダイハツ・ムーヴ試乗こりゃスズキ会長怒りまっせ〜!?

■もはや軽のレベルを超えてる

全く困ったもんだよ新型ダイハツ・ムーヴ。だってデキ良すぎるんだもん。見たとたん、こりゃ業界のカリスマ、スズキの鈴木修会長が怒るぞぉとか思ってしまいました。「もっと業界全体のバランス考えろ〜」って。どっかの消費者金融のCMじゃないけどさ。

というのもね。鈴木会長があまりにバカ売れで勢いありすぎの軽のイメージを抑えようと、生産を白ナンバーのコンパクトカーにシフトしたり、軽自動車を不当に安く売らないように努力しているのに対し、最大のライバル、ダイハツ・ムーヴは今回、これでもかこれでもか! ってくらいに質をアップしてるのだ。ハッキリいってもはや軽のレベルを超えてるね。

最もわかりやすいのはデザイン。全長約3.4m、全幅1.475mと一応軽自動車枠内ではあるんだけど、そのひと筆描きのワンモーションフォルムはベンツAクラスもかくやというデキ。軽にありがちな無駄な線やディテールがほとんどなく、理想主義的なのだ。ま、横幅が狭いから全体がややおサカナっぽくなっちゃってるけどね。

インテリアも今までになく楕円を上下に大胆に組み合わせたカタチで実用性とカッコを両立しているし、なにより凄いのは室内の広さよ。旧型ムーヴですら室内長はトヨタ・セルシオ並みにバカっ広かったのに、今回はホイールベースをさらに10センチも延長。まさにリムジン並みの広さを実現してるのだ。

特にリアシートの足もとの広さったらハンパじゃなくて、愛犬家の阿部カメラマンなんては「これは犬用としてもってこいですね」とポロリ。まさにその通り!

■国内の約半分が軽? という事態に

走りも当然悪くない。エンジンは相変わらず660ccの直3ターボで64馬力と自主規制枠に収まってるんだけど、なんと20年ぶりの新作で、特に58馬力のNAエンジンは単体で48kgという世界最高レベルの軽量化を実現。そのほか全体的に高剛性&軽量化が進められ、軽快感はなかなかだし、乗り心地も上々。

厳密に言うとステアリングとブレーキのしっかり感はまだ軽の枠を超えてないと思ったけど、それでもすぐに追いつけそうなレベルだ。

だからホントにさ。これならいつでもトヨタ・ヴィッツやホンダ・フィットのかわりになれるわけで実際、シェアを食っちゃってるようなのよ。なんせ発売2週間で既に月販目標の1万2000台を受注。さすがにお客様は敏感ですわ。

すると当然、今の軽全体で年間200万台レベルという販売台数を超え、国内の約半分が軽? という事態も見えてくる。

となるとやっぱりトヨタや日産も黙ってないわけで、軽の優遇税制枠撤廃も現実性を帯びてくる。そして冒頭の鈴木会長の販売抑え目&利潤追求戦略に繋がるわけだけど、とはいえダイハツの悲願は33年連続で軽自動車販売トップに居座るスズキを超え、新たな業界の盟主となること。そう遠慮してばかりもいられない。

つまり、業界全体の安定を取るか、自らの名誉と実益を取るかってハナシで、やはり慈善事業じゃ済まされない自動車製造事業だけにダイハツさんも新型ムーヴでバリバリの高品質&高性能路線を取ってきているわけだけど、果たして結果はどうなることやら。

一部のダイハツエンジンアいわく、「我々は逆にリッターカークラスのがんばりを期待したいんですよ。技術者がわざとがんばらないだなんてありえないですよ」とのこと。これまた一理アリだ。

しかし軽業界だけでなく、F1などのレース業界でも“技術の発展しすぎ”は悩みのタネ。エンジニアが持つ過剰な進化の本能と、全体のバランスをどう折り合いを付けていくかが問題になっている。

でもまあよく出来すぎが問題になるなんて、つくづく時代も変わったよね。ある意味、贅沢病にも繋がるこの現象。幸せなのか不幸なのか。考えさせられる問題ですな。

(文と写真=小沢コージ/2006年11月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』