第285回:新型アウディTTの苦悩
これは進化なのか堕落なのか……(小沢コージ)

2006.10.24 エッセイ

第285回:新型アウディTTの苦悩これは進化なのか堕落なのか……

■昔の方がデザイン的にトンがっていた

クルマ、それは非常に難しいプロダクトだと思う。なぜかと言うと「売れればいい」わけじゃないからだ。
その代表がトヨタ車だよね。特に昔のマークIIとかクラウン。俺がいた自動車雑誌でもよく書いてたけど、売れるのはいいけど「センスがない」とか「文化じゃない」とか、一番ひどいのは「志がない」とかね。“志”ってなんですか? って感じだよね。作ってる人からすれば。

一方、逆にいくらカッコが良くて、作り手の意思が詰まってて、マスコミウケが良くても、売れなきゃ仕方がない。なんせ自動車作りは文化事業じゃないんだからして。いくら見て美しく、感じて鋭く、世の中に一石を投じるものであっても、作ってるメーカー自体が潰れちゃうんじゃ元も子もない。

このアンビバレンツな要求に応えなきゃいけないところに、クルマというプロダクトの最大の苦難があるようにも思う。ただ、それは同時にクルマの最大の魅力でもあって、それはクルマが道具であると同時に、走る美術品であり、世の中の風景を変えるものであり、世界経済に多大なる影響を及ぼすものだからだ。

一方、スポーツの道具でもあり、時には人の魂をも震わす。よって「売れればいいじゃん」では済まないのだ。

と前置きが長くなったけど、新型アウディTT。ハッキリ言ってデザイン的に見れば俺はこれを堕落だと思う。なぜならば、昔の方がデザイン的にトンがっていたからだ。
それは理屈では説明しにくいが、なによりも斬新で今までにない、直線と円を多用した幾何学的なエクステリアデザインや、アルミを大胆に使ったインテリア、凝ったディテールからくる印象だ。

■本格的なスポーツカー路線に

比べると新型はよりワイルドにセクシーになったが、正直、どこかポルシェっぽくもあり、トゲが取れた部分がある。
インテリアは相変わらず質が高いものの、昔ほどアルミを使わなくなったし、トランクリッドはより一般的なデザインになった。というか新型は従来のTTをより本格的なスポーツカー路線に近づけたものなのだ。

それは従来ゴルフと共用だったボディのプラットフォームを今回からアルミ複合素材のTT専用にしたことからもうかがえる。ハッキリ言って手間ヒマかかってるし、なによりも乗ると前より全然研ぎ澄まされてる。それはよりパワーアップした2リッター直4ターボ、熟成された3.2リッターV6もそうだけど、なによりステアリングフィール! コイツがおそらくFFスポーツとしては歴代最高なくらいにいい。

FFにありがちな無神経で品のない軽さがなく、タイヤを直接触ってるかのようなソリッド感があり、走行中、今、グリップがどのくらい余ってるかを確実に伝えてくれる。これで電動パワステだっていうんだから、かなりがんばったんだろう。

それから自慢のセミATと相まってとにかく速いし、ある意味、ポルシェから買い換えたって不満を覚えない人もいるかもしれない。

そう、結局初代アウディTTはあまりにアートしすぎていたのだ。それか、あまり売れなかったってことはないと思うから、ある一定の役割を終えたのかもしれない。アウディがメーカーとしてのトンがり度合いで勝負する時期は過ぎたのだ。今後はもっと大きな勝負をしていくのであろう。たぶん。

実際、俺自身、初代TT、カッコいいとは思ったけど「買う」にはいたらなかった。それはあまりにもかわい過ぎたし、乗ると普通だったからだ。その点、新型のがちょっと興味があったりする。うーむ、その辺、やっぱ難しいよね。自動車って(笑)。

(文と写真=小沢コージ/2006年10月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』