第37回:『小さな高級車』マツダ・キャロル(1962〜70)(その1)

2006.09.13 エッセイ

第37回:『小さな高級車』マツダ・キャロル(1962〜70)(その1)

ご存じのとおり、「マツダ・キャロル」は現在もラインナップされているカタログモデルである。
その現行車種をつかまえて「これっきり」呼ばわりするとは、失敬千万であると思われるかもしれない。

だが、現行モデルで5代目となるキャロルの歴史のなかで、完全なマツダ・オリジナルだったのは62年に登場した初代だけで、初代と2代目以降には、車名を除けばなにひとつとして関連性はないのである。

■実質的には「これっきり」

2004年10月に登場した現行(5代目)キャロルは、スズキ・アルトのOEMモデルである。これは今に始まった話ではなく、1998年にデビューした先代(4代目)も同じくアルトのOEMだった。
さらに遡って3代目、そして89年におよそ20年ぶりに復活した2代目は、ボディこそマツダのオリジナルだったものの、その中身はアルトだった。浜松から調達したアルトのランニングシャシーに広島でボディを架装するという手法で作られた、いわば「着せ替えアルト」だったのである。

それらに対して、62年2月にデビューした初代キャロルは正真正銘のマツダ・オリジナルだった。しかもスバル360とともに、最初の軽自動車ブームの牽引役となったまずまずの成功作でもあった。
しかしながら、その成功を後につなげることができず、初代キャロルの終焉をもってマツダは一時期軽乗用車市場から撤退することになってしまう。そうした生い立ちから、初代キャロルは実質的な「これっきりですカー」であったと考え、取り上げた次第である。

前述したように初代キャロルが登場したのは62年だが、戦前からオート三輪でその名を知られたマツダ(当時の社名は東洋工業)が乗用車市場に進出したのは、それより2年ほど前の60年5月のことで、車種はR360クーペだった。R360 クーペは2+2(法規上は4座)ボディのリアに、軽三輪トラックから流用した空冷4ストロークV型2気筒OHV356cc・16psエンジンを搭載した軽乗用車で、トルクコンバーター式のオートマチックがラインナップされていたこと、および乗用車としてはもっとも廉価だった(4MT仕様30万円、AT仕様 32万円)ことが特徴だった。R360クーペはその後、アクセルとブレーキを手動とした、下肢に障害のある人向けの仕様を加えるなどして長い間作り続けられることになるが、いっぽう61年秋の東京モーターショーには「マツダ700」と名乗る、まったく新しい乗用車のプロトタイプが出展された。

「マツダ700」は、偶然ながら今日の軽規格に収まる水冷直4OHV660ccエンジンをリアに積んだ4ドアセダンだったが、これを全長3m、全幅1.3m、排気量360cc以下という当時の軽規格にスケールダウンしたモデルが、翌62年2月に発売された初代「キャロル」だった。

すでにR360クーペがあるのに、なぜ同じ軽自動車を出したかといえば、いかんせん2+2ではファミリーカー需要に応えるのは難しく、その市場をほぼ独占していたスバル360の牙城を崩せなかったからであろう。イセッタやメッサーシュミットのような「キャビンスクーター」の延長線上にあるモデルではなく、「ジドウシャ」然としたモデルが、本格的な乗用車メーカーを目指すマツダには必要だったのだ。(つづく)

(文=田沼 哲/2005年7月)

現行モデルのマツダ・キャロル。スズキ・アルトのOEMである。
現行モデルのマツダ・キャロル。スズキ・アルトのOEMである。
60年5月に発売されたマツダ初の乗用車である「R360クーペ」。2トーンカラーとサイドモール、ホワイトウォールタイヤ、リアウィンドウカーテンなどで装ったこれは、61年2月に加えられたデラックス。
60年5月に発売されたマツダ初の乗用車である「R360クーペ」。2トーンカラーとサイドモール、ホワイトウォールタイヤ、リアウィンドウカーテンなどで装ったこれは、61年2月に加えられたデラックス。
61年秋の東京モーターショーに参考出品された、キャロルの原型となったプロトタイプ「マツダ700」。
61年秋の東京モーターショーに参考出品された、キャロルの原型となったプロトタイプ「マツダ700」。
62年2月に発売された「マツダ・キャロル」。当初はボディは2ドアのみで、モノグレードだった。
62年2月に発売された「マツダ・キャロル」。当初はボディは2ドアのみで、モノグレードだった。

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田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。