第27回:『あまりにも不憫な』ダイハツ・アプローズ(1989〜2000)(その1)

2006.09.13 エッセイ

第27回:『あまりにも不憫な』ダイハツ・アプローズ(1989〜2000)(その1)

不適切なクレーム対応の結果、メーカーが存続の危機さえ囁かれる事態に陥ることもあることは、先刻ご承知のとおり。
その事件に関する報道に接しているうちに、今から15年ほど前、デビュー直後に起きたトラブルがセンセーショナルに報じられたことでつまずき、運命を狂わされてしまったクルマがあったことを思い出した。

その不憫なモデルの名は、「ダイハツ・アプローズ」……。


■喝采という名のクルマ

英語で「喝采、称賛」という意味を持つダイハツのフラッグシップ、アプローズ(APPLAUSE)の誕生は1989年7月。バブル景気と呼ばれた空前の好況のもと続々デビューした、「セルシオ」や「ユーノス・ロードスター」、「R32スカイラインGT-R」など、日本車史上に足跡を残すモデルたちと同期だったわけだ。それ以前にダイハツは、 74年に初代モデルがデビュー、81年に2代目に発展した「シャルマン」という名の1.2〜1.6リッター級セダンをつくっていた。しかしこのシャルマンは、提携先であるトヨタの「カローラ」の主要コンポーネンツを流用したモデルだった。しかも初代モデルに限っていえば、発表時点ですでに旧型となっていたカローラの先代モデルをベースとする、いわば“仕立て直したお古”だったのである。それに対してアプローズは、100%ダイハツで自社開発された1.6リッター級のセダン。正式発表に先立ち89年春のジュネーブショーに「MS-X90」のコードネームでプロトタイプを展示するなど、このクラスを手がけるのは初めてとあって、相当に気合が入っていたことが窺える。

■パッと見4ドア、じつは5ドア

アプローズのボディは3ボックスセダンのみ。一見したところオーソドックスな4ドアセダンに見えるが、“スーパーリッド”と名付けられた、バンパーレベルから大きく開く“だまし絵”的なテールゲートを備えた5ドアセダンだった。セダンのフォーマル性とハッチバックのユーティリティをあわせ持つこのボディがアプローズ最大の特徴といえるが、そのサイズは全長×全幅×全高=4260×1660×1370mmと、当時のカローラや「サニー」とほぼ同じだった。スタイリングはクリーンでおとなしいものだったが、フラッシュサーフェス化などに留意した結果、Cd=0.33と、当時の実用セダンとしては優秀な値を示していた。

エンジンは、「シャレード」用1.3リッターのストロークを伸ばしたロングストローク型の直4SOHC16バルブ1589ccで、チューンは2種あり、シングルキャブレター仕様が97ps/6300rpmと13.3kgm、インジェクション仕様が120ps/6300rpmと 14.3kgm/4800rpmの最高出力と最大トルクを発生。駆動方式はFFとフルタイム4WDがあり、前者には5MTまたは4AT、後者には5MTのトランスミッションが組みあわされた。

サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがパラレルリンクおよびトレーリングリンクとストラットによる4輪独立懸架で、ブレーキはフロントが全車ベンチレーテッド・ディスク、リアは上級グレードがディスクでほかはドラム、4輪ディスク車にはABSもオプション設定されていた。
当初用意されたバリエーションは、FFが下位から「16L」「16X」「16Ri」の3グレード、4WDが「16Zi」のみという全4車種で、価格は108.0万円から139.5万円だった。(つづく)

(文=田沼 哲/2004年5月23日)

1989年7月にデビューしたアプローズ。スタイリングは地味ながらスッキリとまとめられていた。写真は当初の最高級グレードだった「16Ri」で、4輪ディスクブレーキ、パワーステアリング、チルトステアリング、パワーウィンドー、電磁ドアロックなどを装備して、価格は5MTが131.5万円、4ATが139.5万円だった。
1989年7月にデビューしたアプローズ。スタイリングは地味ながらスッキリとまとめられていた。写真は当初の最高級グレードだった「16Ri」で、4輪ディスクブレーキ、パワーステアリング、チルトステアリング、パワーウィンドー、電磁ドアロックなどを装備して、価格は5MTが131.5万円、4ATが139.5万円だった。
中間グレードである16Xのリアビュー。ごく普通のノッチバックの4ドアセダンに見えるが……。
中間グレードである16Xのリアビュー。ごく普通のノッチバックの4ドアセダンに見えるが……。
このようにリアバンパーのレベルから開く、“スーパーリッド”と呼ばれるテールゲートを備えていた。
このようにリアバンパーのレベルから開く、“スーパーリッド”と呼ばれるテールゲートを備えていた。

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田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。