第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)

2006.09.13 エッセイ

第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)

こちらは表紙が切り抜いて組み立てられる「紙のクルマ」になっているカタログ。
第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)(田沼 哲)
「楽しさもドンと運べる5ドアの新鮮(フレッシュ)バン」というステップバンのキャッチコピーを象徴するようなカット。
第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)(田沼 哲)

■ポップな動く看板

判型がサイドビューそのものだったり、表紙が組み立て式の「紙のクルマ」だったりと、ステップバンのカタログも実車同様ユニークだったのだが、それらのカタログを開くと、ホンダが主張するとおりステップバンが新しいコンセプトを持つ商用車だったことがよくわかる。
それまでの商用車、なかでもバンのカタログというと、ウイークデイは荷物を運び、週末はレジャーに、という紙面構成がほとんどだった。そしてたいていの場合、ウイークデイの場面に登場するモデルは、きちんと作業ジャンパーや作業帽などを着用していた。
だが、ステップバンのカタログに表現されている世界は、それらとは異なっていた。登場人物はカジュアルからフォーマルまで、思い思いのファッションに身を包み、洋服やぬいぐるみ、テレビ、家具、ウェディングケーキ、生花、楽器、絵画などさまざまなものを積み込んでいるのだ。そこにはオンとオフの明確な区別は見られない。

当時、ホンダのカタログや広告は他社のそれに比べ都会的なセンスが際立っていたのだが、このステップバンもしかり。全体を通じて漂うポップな雰囲気は、そのままホンダがステップバンに与えたキャラクターだったといえる。
またカタログでは、ボディサイドにカラフルなストライプやサインを入れた姿が目立つが、これも当初から意図されていたもの。ボディカラーを淡色とし、ユーザーがレタリングやペインティングを施して「動く看板」となるよう考えられていたのだ。

左ハンドルが作りやすいよう(実際には作られなかったが)メーターをセンターに配置し、左右対称としたインパネ。画像にあるように伝票処理などが可能なフラットなダッシュの脇にはペンホルダーも標準で備わり、「動くオフィス」としての機能をもたせている。
第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)(田沼 哲)
リアシートを倒すと、低く、フラットなカーゴルームが生まれる。だが短いとはいえボンネットがあるため、荷室長(奥行)では一般的なワンボックスタイプに比べ不利だった。
第21回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その2)(田沼 哲)

■金を使わず、知恵を絞る

こうした新しいコンセプトを持ついっぽう、ステップバンはまた、非常に合理的な設計がなされたモデルでもあった。メカニカルコンポーネンツがライフからの流用であることは前述したが、単純明快な平面基調のボディのそこここにも他車からの流用パーツが見られる。たとえばフロントグリルとリアコンビネーションライトは軽トラックのTN360から、フロントウインカーはN360から、テールゲートの下半分はライトバンのTN360からといった具合。また、ホイールハウスの切り欠きを見ればおわかりのように、右前と左後ろ、左前と右後ろのドアは基本的に共通なのだ。
明快なコンセプトのもとに、合理性と機能性を徹底的に追求した結果、ある意味ファッショナブルともいえる新たなスタイルが生まれた……ステップバンは作り手の能力とセンスが存分に発揮された、ホンダらしいユニークなモデルだったのである。
バリエーションはスタンダードとスーパーデラックスの2種だったが、まっさらなキャンバスのような素材感が売り物だっただけに、後者といえども余分な装飾はいっさいなし。外観上の識別点はスーパーデラックスにはウインドまわりのゴムにクロームのモールが入ること、およびホワイトリボンタイヤを履くことくらいで、両者の違いはもっぱら室内における調度や装備品に置かれていた。
ボディカラーはそれぞれ1色のみで、スタンダードがごく薄いブルー、スーパーデラックスがアイボリーで、価格は前者が37万6000円、後者が40万3000円だった。(つづく)

(文=田沼 哲/2003年9月1日)

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田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。