第4回:「ロータリー心中」NSU Ro80(1967〜77)(前編)

2006.09.13 エッセイ

第4回:「ロータリー心中」NSU Ro80(1967〜77)(前編)

「これっきりですカー」の4台目として取り上げられるのは、なんと!! 欧州カー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたNSU「Ro80」。世界初のロータリーサルーンは、しかしその先進性とは裏腹に、NSUを破滅への道へといざなうのだった……。

Ro80のカタログより。異形ヘッドライトをはじめとする各部のモチーフから推測するに、スタイリングにはピニンファリーナの息がかかっているようだ。
Ro80のカタログより。異形ヘッドライトをはじめとする各部のモチーフから推測するに、スタイリングにはピニンファリーナの息がかかっているようだ。
プレス資料より、構造図。メカニカルコンポーネンツを最小限にまとめ、キャビンとラゲッジスペースを最大限に確保した、見事なパッケージングである。
プレス資料より、構造図。メカニカルコンポーネンツを最小限にまとめ、キャビンとラゲッジスペースを最大限に確保した、見事なパッケージングである。

■ロータリーエンジンの本家本元

過去3回の例から、「これっきりですカー」とは、マイナーな国産車という印象を持たれた方が多いのではないかと思う。だが、けっしてその方面に限定しているつもりはない。今回のサンプルは外国車、それも自動車史上に語り継がれる存在であろう、これっきりはこれっきりでも、とびきりハイブローなこれっきりですカー(なんだそれ?)である。なにしろ世界初のロータリーエンジン搭載サルーンとして知られるこのNSU「Ro80」は、デビューした1967年のカー・オブ・ザ・イヤーに選出されているのだから。そんなクルマがなぜ?と思われるかもしれないが、それはこれから先のお楽しみということで。

さて、Ro80について語る前に、まずはNSUというメーカーについて簡単に紹介しておこう。1873年、ドイツのネッカーズルムに織機製造会社として設立されたNSUは、自転車を経て20世紀初頭からモーターサイクル製造を開始した。次いで四輪車へも進出したが、29年からは再び二輪車に専念。以後は世界有数の二輪メーカーとして地位を築いていたが、58年にリアエンジンの小型車であるプリンツをもって四輪車市場に復帰した。

いっぽうではドイツ人フェリックス・ヴァンケル博士が独自に研究を進めていたロータリーエンジンに着目し、54年から共同開発に着手。59年に試作第1号シングルローターエンジンを発表し、一躍その名を世界中に知らしめた。そして64年には世界初のロータリーエンジン(1ローター・500cc)搭載車であるヴァンケル・スパイダーを発売した。のちにわが国のマツダにすっかりお株を奪われてしまったが、ロータリーエンジンの本家本元はまぎれもなくNSUなのである。

2ローター・ロータリーエンジン以下、コンパクトにまとめられたパワートレイン。フロントディスクブレーキはインボードタイプである。
2ローター・ロータリーエンジン以下、コンパクトにまとめられたパワートレイン。フロントディスクブレーキはインボードタイプである。
低いノーズからハイデッキのトランクにかけて、なだらかなウェッジシェイプを描く。細いピラーとガラス面積の広い6ライト・ウィンドウにより、視界は抜群。シンプルなテールエンドの造形もピニンファリーナ調だ。
低いノーズからハイデッキのトランクにかけて、なだらかなウェッジシェイプを描く。細いピラーとガラス面積の広い6ライト・ウィンドウにより、視界は抜群。シンプルなテールエンドの造形もピニンファリーナ調だ。

■先進メカニズム満載

というのがRo80発売以前のNSUの歩みである。そのNSUが、それまでの小型車専門から脱し、ミドルクラスに進出するにあたって用意した“飛び道具”がRo80だったのだ。それだけに凝り方はハンパではなかった。

なかでも最大のウリは、当然のことながらロータリーエンジン。ひと足先に発売されたマツダのコスモスポーツに次ぐ2ローター・ロータリーエンジン搭載車で、単室容積497.5cc×2というエンジンのキャパシティは、コスモ用とほぼ同じだった。ただし吸気ポートは、マツダが低中速域を重視したサイドポート方式であるのに対し、アウトバーンの国で生まれた NSUは高速域における吸気効率に優れたペリフェラルポートを採用。その結果、最高出力115ps/5500pm、最大トルク 16.2kgm/4500pmというかなりの高速型ユニットとなった(ちなみにコスモ用は491cc×2、110ps/7000rpm、 13.3kgm/3500rpm)。

それゆえ不足気味となる中低速トルクを補うために、トランスミッションは3段セミオートマチックが採用された。これの基本構造はかつてのフォルクスワーゲンやポルシェの「スポルトマチック」同様、マニュアルギアボックスとトルクコンバーターを組み合わせたものだが、クラッチはVWやポルシェのような電磁式ではなく、バキュームサーボで作動する。さらに駆動方式はFWD(前輪駆動)、足まわりは4輪独立懸架にサーボ付き4輪ディスクブレーキ(フロントはインボード)と、当時としては進歩的なメカニズムが満載されていたのである。

(後編につづく)

(文=田沼 哲/2001年8月10日)

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田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。