第279回:皇帝シューマッハー引退決定!
彼は辞めたのか、辞めさせられたのか?(小沢コージ)

2006.09.12 エッセイ

第279回:皇帝シューマッハー引退決定!彼は辞めたのか、辞めさせられたのか?

シューマッハーをフェラーリに呼び込んだ“黒幕”、ルカ・ディ・モンテゼーモロ。

■“金より勝利!”なシューマッハー

既報の通り、シューマッハーが引退を決めた。もちろん引退“した”のである。ワールドチャンピオンを7回も取ったほどの男が、絶望的に負け続けてるわけでもないのに引退させられるわけがない。

だが、これほど引退発表の時期を引っ張ったのは、モータースポーツならではの“せざるを得ない”理由がゆえだろう。
そう思う最大の根拠は彼の性格である。なによりも闘いが好きで勝利が好き。おそらくは意外と金にも執着してない。それは既に十二分以上のギャランティを得てるだろうに、現在も100%以上の力で闘い続けていることからもうかがえる。金の亡者だったら、とっくに引退して別のビジネスでもやってるはず。やはり命がかかった特異なスポーツだからね。

もちろん、トップクラスのドライバーが自分が怪我するシーンを心配しながらレースしてるとは思えないが、冷静にみて、死は当然想定の範囲内なんだから、単純にビジネスライクにレーシングドライバーという職業を見た場合、とっくに引退してていい。やはり“金より勝利!”な性格なのだ。

プジョーのCカープロジェクトを経てフェラーリへとやってきたジャン・トッド。シューマッハーとともにフェラーリ黄金期を築き上げた。

■辞めた本当のワケ

もちろん勝てなくなっているとも思えない。今年8回目のタイトルを取ったとして、9回目も十分ありうるし、なにより引退会見中に「力の限界」的な発言はひとつもなかった。

それは今後、フェラーリでライコネンとジョイント・ナンバーワン体制を組んだとしてもだ。確かにライコネンはメチャクチャ速いし、最近のシューマッハーはミスも多いが、彼の方がチームの内情を知り尽くしている。もちろん、ジャン・トッドほかスタッフが引退するのかもしれないが、それでもシューマッハー有利だ。

ところが引退を決めた。そこから想定される判断の分け目は、もちろん容易に想像できる“年齢”“自分の力の限界”もあるけど、彼の性格が意外と“フェアじゃなかった”ってことだ。というか、元々フェアではないんだけど。

もしもあれだけ勝利に固執する性格で、なおかつ自分の運転技量でのみ正々堂々勝負するタイプ(それをココでは一応フェアということにしている)であれば、引退なんかせずにさらに闘い続けたと俺は思う。
勝手な想像だが、それは彼がまだまだ速いこと、まだまだ精神的にタフなことからもうかがえる。加えて、とても年齢で自分を縛るタイプではなさそうだし、「俺もそろそろ歳だし……」と考えたとは思いにくい。ま、俺の勝手な想像ですよ!

要するにシューマッハーは、自分でチームをコントロールできなくなったから辞めたんである。それは今後のレポートを待たねばならないが、チーム側からいつ頃、どのような感じでライコネンとのジョイント・ナンバーワンを求められたかにもよる。意外と早くから温和に打診されていたんではあるまいか。だから迷っていたのでは?

まだまだシューマッハー・オンリーワン体制が続くことが保障されていれば、彼はとっくに続ける判断をしていたと思う。それくらいのツワモノであり、勝ちたがりの男なのだと俺は考える。
というか今年引退したとして、また走りたくなるであろう、自分の性分をよくわかっていたんであろう。俺は正直、40歳を越えても平気でF1に乗り続けられるドライバーだと思っていたのだ。

“大家族”フェラーリは、シューマッハーを辞めさせたのであろうか?

■シューマッハーは辞めさせられた

そこから考えるとやはりシューマッハーは辞めさせられたのである。真綿で締めつけられるように辞めさせられたんである。

フェラーリは常に勝ち続けなければならない。そういう運命を課せられたチームである。さすがにワールドチャンピオンを7回取った最強のドライバーとは言えど、“勝てなくなりそう”な時期まで自由に好き勝手に挑戦させるわけにはいかない。モンテゼーモロ会長はそんなに甘い人間ではない。

なるべく早めに勝てる確率の高いドライバーをチョイスしたいし、乗り換えたい。だから限りなく穏便に、プライドを傷つけないように、ライコネンの採用を匂わせたのだ。そうして、迷った挙句、シューマッハーは引退を決めたのだ。

というかフェラーリがシューマッハーにライコネンとのジョイント・ナンバーワン体制を飲ませた時点で、引退は事実上決まっていたのだ!

……なーんてちょっと思っただけなんですけどね。すべてワタクシオザワコージの一方的かつ、うがった“仮説”なんでご容赦くださいませ(笑)。

(文=小沢コージ/写真=Ferrari/2006年9月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』