第276回:新型レクサスLS460海外試乗
なぜだろう? ジーコ・ジャパンとイメージが重なってしまったオレ(後編)(小沢コージ)

2006.08.19 エッセイ

第276回:新型レクサスLS460海外試乗なぜだろう? ジーコ・ジャパンとイメージが重なってしまったオレ(後編)

■過剰な期待

(前編からのつづき) ただね。レクサス首脳陣が言う数々のお題目、つまり「高級の本質の追求」「ときめきとやすらぎに満ちた最高の時間の提供」「初代レクサスから存在するYET(まだまだ)の思想」「源流主義」「匠の技」「L-finess……精緻先鋭の美」などの壮大なコンセプトを最初に聞いてしまうと少々ガッカリしてしまうのよ。

それは先日のサッカードイツW杯における日本代表とまったく同じ! 監督であるジーコが大会前に「世界を驚かせる」と言ってしまったがゆえ、それを聞いたスポーツジャーナリズムが過剰に期待してしまったという。
あれがなければ今回のグループリーグにおける2敗1引き分けという結果はともかく、予選敗退は想定の範囲内だったわけで、しかし「驚かせる」なんて聞いていたから「なんだよそれ」というキブンになってしまった。

それと同じでLSっていうかレクサスについても首脳陣が「高級の本質の追求」をはじめ、「最高」をやたら連発したおかげでオレたち自動車ジャーナリズムは過剰に期待してしまった。

だってさ。話を聞いてたらメルセデス・ベンツやBMWはもちろん、はてまたロールス・ロイスやアストンマーティンともまったく違う、別世界でぶっちぎりの“和の高級感”を作り出してくれるように思えるじゃない。ほとんどローマのコロシアムに対抗できる、京都の金閣寺のような存在をよ。

でも現実的には走りこそ独特の浮遊感があるし、絶対的に静かだし、高速での安定感とイージーさも他にないレベルだと思ったけど、スタイリングは基本、現行セルシオの延長上に思えた。

特に残念だったのがアレだな、インテリア。多少、メーターまわりやモニター表示に新しい表現があったけど、センターモニターまわりのスイッチデザインにしても現行モデルとほとんど同じのキープコンセプト。新しさは感じられない。

なんというか全体的にこれぞ! という主張がない。それどころか、主張をあえて抑えた奥ゆかしささえ感じる。それはとりわけデザインにうかがえ、高級車になればなるほど絶対的性能よりもある種の精神性であり、記号性が重要になると考える俺はこれでいいんだろうか? と思った。これじゃ性能はいいけど主張しない、いわば「カネは出すけど口は出さない」今の日本国民そのもの。もしやそれがレクサスの考えるジャパン・オリジナルなのかもしれないけど……。

■とてつもなく重く困難な道

その理由を考えてみると、要するに高級車というのは、作り手のいる社会全体の価値観を映し出してしまうからなんだよね。サッカーが国民性を反映するが如く、クルマもまた国民性を反映させるわけで、しかもレクサスが反映するのは、鎖国中の江戸時代や平安時代の日本ではなく、現代日本人が持つ高級感や価値観。つまり、海岸線を堤防で固め、道路をカンバンでがんじがらめにされた殺風景な環境であり、そこで育った“顔が見えない”といわれるくらい主張の弱い民族。それがそうそう“世界を驚かす美意識”になるわけがない。

それを作りだすためには、おそらくサッカー日本代表がW杯で優勝するのと同じぐらい大変な時間と労力が必要なのだ。

それからもうひとつ言っとくと現場のエンジニアが「世界最高のものを作りたい」「何人にも負けたくない」と思うのは良くわかるし、当然だと思う。それはスポーツ選手がいくら相手が強かろうが、世界チャンピオンだろうが闘う前から「負けそうです」と言っちゃいけないのと同じ理屈で、そういう意味でレクサスの言ってることは正しい。

でもね。オレからすると正直、首脳陣までそれを言うべきでなかったような気がする。内部だけの気合の確認で良かったんではあるまいか。
だから逆に、今回のレクサスLSが“現行セルシオの正常進化”と聞いていたら納得できたんでしょう。それどころか「今までにない楽しい世界を作り出した!」という評価すら得たかもしれない。
そういう意味でLSは現実のジーコ・ジャパンよりよっぽど凄くて、今年の“高級車ワールドカップ”の予選は楽勝で突破してただろうし、おそらくベスト16には入れたという出来なのだ。

オレは素直にレクサス首脳陣が「世界最高の高級を目指す」「高級の本質を追求する」と言ってくれたのが嬉しかったし、それこそレクサスのやるべきことだとは思った。それはとてつもなく甘い夢であり、日本のクルマ好きが持つであろう永遠の願望。
ただし、同時にその言葉はとてつもなく重く困難な道でもある。それを今回、深く認識した次第である。

(文と写真=小沢コージ/2006年8月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』