第261回:生きてて良かった〜歴代SL大ゴージャス試乗会(その2)
発見! トマトは昔のほうが味が濃いの法則(小沢コージ)

2006.04.24 エッセイ

第261回:生きてて良かった〜歴代SL大ゴージャス試乗会(その2)発見! トマトは昔のほうが味が濃いの法則

300SL ロードスターに乗った〜!
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280SL ロードスター
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300SL クーペ。言わずとしれたガルウィングをもつ2シータークーペ。1954〜57年まで生産された。
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■洗練されていないがゆえ

(前回からの続き)昔のSLが持つそういう味わいって、まさに食べ物と同じで、クルマも今より昔のほうが味が良かったモノってのが確実にあるのよ。それはつまり、今のクルマが管理されすぎてるからであって、車重にしろ、デザインにせよ、制限がありすぎるのと、あとは“歯ごたえ”みたいな部分だよね。
今のクルマは、大概が高速道路を長距離疲れず走れるように作られてるから、エンジン音や路面からの振動、無駄なハンドルの重さをとにかく取り去る方向にある。いわば“洗練”の方向だよね。

でも、それって実は野菜における土臭さだったり、皮の硬さだったり、あふれる水気だったりして、それを取り去り過ぎると、とたんに味気ないものになってしまう。多少、最初はうっとおしく感じる歯ごたえでも、慣れれば美味しく感じたりするものなのよ。
バーベキューだってそうでしょ? 同じ肉でも、晴れた気持ちいい日に外で食べれば、肉の味に加えて、風の匂いとか、肉が焼ける音とか、時には煙まで楽しめたりする。

ガルウィングからこんにちは。でも……
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サイドシルが広く、乗り降りはタイヘンなのだ。
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それから大切なのは乗る側のキモチだよね。昔のクルマに乗ると、確かに暑かったり寒かったりうるさかったりするけど、そのぶん、凄く運転に集中できる。なんつーか、無人島に行けば、たぶんなんでも楽しめるワケじゃないのさ。つまらない本でも、ちょっとした焚き火でも、やっと食べれる木の実でも草でも、あらゆるものに間違いなく感動できる。
そういう風に、自分の精神状態がアクティブになっているか、なってないか。古いクルマにはそんな効果もある。

300SL クーペのインテリア。シフトレバーがコラム式からフロア式になったモデルでもある。しかも、乗り込むときにステアリングホイールが……。拡大写真で、その仕組みが明らかになります。
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0−60マイルを9秒以内でこなす動力性能の持ち主。
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■280SLは“ライトウェイトスポーツ”

最後にチョロっと残りをインプレしちゃうと、まずは68年式の2代目280SLに驚きました。なんつーか、半分ライトウェイトスポーツ入ってきてるのだ。見た目はエレガントなタテ目ヘッドライトなのに、イメージと違ってもはやSLっぽさは少なく、一部ステアリングフィールにSLらしいしっとり感は残ってるけど、それ以上にダイレクトで軽快。衣をさらに一枚脱いだような感じ。

ATシフトレバーにしても、既にジグザグゲートを採用しているクセに、フィールが華奢で繊細なのに驚いた。一方、同年式の250SLだけど、同じ直6 SOHCユニットとは思えないくらいにエンジンがよく回り、そのうえ、音が最高だった。プォォォォォォォ! って具合に耳の奥に残るいい音なのだ。ある意味、今のクルマよりキモチいい。

300SL ロードスター。1957〜63年までつくられた。61年からは、ブレーキがドラム式から、サーボ付きのディスクブレーキに変更されている。
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めちゃくちゃ綺麗なエンジンルームから、個体の状態がスバらしいことが、おわかりいただけるかと思います。
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■2台の300SLは……

最後に大トリの2台の300SLだけど、まず素晴らしいヴィンテージ具合だったのは300SLロードスター。エンジンの調子といい、ボディの美しさといい、乗り心地といい、個体の調子は最高潮。エンジンはもちろん、今の直6と比べると音はブリキを叩いてるように安っぽいし、回らないけど、50年前のクルマとしては信じられない品質感、安定感で、ボディ剛性も高い。ステアリングも今のSLほどの味わいはないけど、十分に軽く、取り扱いやすい。

ただね。個人的にシビれちゃったのはガルウィングのほうだね。といっても別に見た目だけじゃありまっせーん。各部程度にしても、コッチはレース仕様なせいか、ハンドルは重すぎるし、エンジンも不思議な雑音がいくつも混ざり合ってて、キモチよくはない。程度としてはロードスターのほうがダンゼンいいでしょう。
でもね。その全体から伝わってくる“疾走感”は格別。なんつーか、まさに“機械を操っている”という実感があるのよ。走らせるだけで、すでにスポーツという感じ。

なぜならクルマの味を五感で感じられるのよ。ステアリングの重さ、加速Gだけでなく、エンジンの爆発具合までイメージできそうな音に、細っこいがしっかりしたシフトを通じて伝わってくるギアボックスの振動。これまたギアのかみ合い具合までわかるようだし、さらにサーボの付いてないソリッドなブレーキのフィーリングから、漂うガソリンの匂いまで、すべてが溢れんばかりに俺の感覚を刺激する。まさに情報の洪水であり、昔の野菜的な“クルマの美味さ”! ついでにこういう情報を味わいながら、ヒール&トゥーでシフトダウンを決めた時の楽しさったらない。いや、まったくもってサイコーなのよ。300SL! 俺はメチャクチャ感動した。

ロードスターのインテリアは、レッドレザーのラクシャリー仕様。コンディションはもちろん、スバらしい!
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■総合的にはイマも負けない

それから2台とも、ボディから伝わってくる振動が違っていた。それまでのSLは、基本今のクルマと同じで、モノコック構造。しかし、2台の300SLは鳥カゴのようなケージフレームで、走ってる時の包まれ感が違う。サイドシルは腰の高さまであるし、なんちゅーか、非常に守られてる感が強いのだ。
おそらくねじれ剛性とか曲げ剛性を今のクルマと比較すれば、今のほうが断然高いんだろうけど、この時代のエンジンパワーとしては十分以上! 総合バランス、スポーティでは最新モデルに全然負けてない! と思いました。

それから当然ながら、乗ればモノクロ・ヨーロッパ映画の主人公になったような気になるインテリア&ボンネットも素晴らしい。だからね。単純にデザイン、走る楽しさで今のクルマに全然負けてないどころか、勝ってるところすらあるのだ。
そう、ヒストリックカーは単なる懐古趣味じゃない。味の濃い、今蘇った昔の野菜そのものだ! と思いました。

あと、漠然とこの当時のメルセデスの技術アドバンテージは「凄かったんだろうなぁ……」って、つくづく実感しましたね。

(文と写真=小沢コージ/2006年4月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』