【スペック】全長×全幅×全高=5205×1870×1485mm/ホイールベース=3165mm/車重=2060kg/駆動方式=FR/5.5リッターV8DOHC32バルブ(387ps/6000rpm、54.0kgm/2800-4800rpm)/価格=1396万5000円(テスト車=1482万6000円/ラグジュアリーパッケージ=63万円/ナイトビューアシスト=23万1000円)

メルセデス・ベンツS500ロング(FR/7AT)【試乗記】

安楽にして、走りの歓びも備える高速クルーザー 2006.03.09 試乗記 メルセデス・ベンツS500ロング(FR/7AT)……1482万6000円7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた、メルセデス・ベンツのフラッグシップ「Sクラス」。そのトップグレードで、ロングホイールベースの「S500ロング」に試乗した。後席でマッサージを受けるのもいいが、ステアリングホイールを握っても……。

注目のインテリア

さすが発表前からすでに1500台もの受注を集めたというくらいで、メルセデス・ベンツの新型Sクラスは瞬く間に街で見かける機会が増えた。しかし、最初に写真を見たときに感じたほどはエグい格好に感じないのは、目が慣れたからばかりではない気がする。たしかに先代と較べると存在感は強まっているのだが、かといってそれは威圧感を強めているのとイコールではない、そんな風に思うのだ。確かにディテールはアグレッシブ。けれど、やたらに押し出すばかりでなく線や面には繊細さも宿る。マイバッハにしてもそうだが、どこかに和の匂いを感じるのは気のせいではないと思う。

インテリアも大きな変化を遂げた。目立っているのはステアリングコラムへと移されたATセレクターと、そこに代わって置かれたダイヤル式コントローラーで操作するコマンドシステムと呼ばれるナビやオーディオ、エアコンなどの集中操作系。さらに必要な情報を適宜スーパーインポーズするため、アナログ計に見えて実は液晶モニターのメーターパネルや、夜になるとトリムの隙間から妖しく光が漏れるイルミネーションなど、ほかにも注目すべき箇所が満載である。

そんなわけで一瞬はたじろぐものの、そこはさすがメルセデスというべきか、基本操作はマニュアルなど見なくてもすぐに習得でき、少なくとも走り出すことにすら戸惑うということは無い。しかし、注文をつけたい箇所は残念ながら少なくないのも事実だ。

コマンドシステムの操作に問題あり

コマンドシステムのメニューや階層構造、そしてコントローラーのクリック設定は、基本的に目で見ながら操作した時のわかりやすさを重視している。これはこれでとっつきやすくもあり悪くない。問題は、逆に慣れてもBMWのiDriveのように、ブラインドタッチで操作するのは難しいということである。
たとえば、大の渋滞嫌いな僕はラジオの交通情報を頻繁に聞くのだが、その時に画面を見ながらダイヤルを押し下げてクリックして回して……というのはとても鬱陶しい。音声認識機能を発達させるか、よく使う機能はすぐ呼び出せるようカスタマイズできるようにするかしてほしいところ。じゃなければ、コントローラーのすぐ脇にあるエアサスペンションのモード切り替えスイッチと入れ替えてくれないだろうか。どうせ滅多に使わないのだから。

滅多に使わないと言いきれるのは、基本のC(コンフォート)モードでも、走りに十分満足でき、S(スポーツ)や、ましてやM(マニュアル)モードを選びたくなることがほとんど無いからだ。乗り心地はとてもソフトだが、闇雲に柔らかく落ち着かないわけではなく、豊かなストロークの中を泳ぐ速度は完璧にコントロールされているという印象。乗り味はとてもしっとりとして落ち着いている。大きなうねりを突破した時などには、エアサスペンション特有の突っ張り感が顔を出すものの、まあ目くじらを立てるほどのことはない。

ただ、ステアリングの中立付近は、ここまで敏感でなくてもいいかなとは思う。画面を見ないと操作できないコマンドシステムを操作しながら運転していると、進路が微妙に泳いでしまうのだ。視線を多少そらそうとも、掌に伝わる手応えだけで直進が明瞭にわかってこそメルセデスなのではないだろうか。





意思を裏切らない動き

しかし、その点を除けば高速クルーザーとしての資質は、やはりさすがである。運転はこれでいいのかと思うくらい安楽なのだが、とはいえそれは眠りを誘う退屈なものではない。疲れず安楽なのは、加減速にしても曲がりにしても、クルマの動きがとにかくこちらの意思を裏切らないから。ライトウェイトスポーツの一体感とは意味が違うが、たとえ長距離でも、新幹線ではなく自分でステアリングを握り走らせていこうと思わせるだけの走りの歓びは、そこに確かにある。
それはひとつには新しい4バルブDOHCの5.5リッターV8エンジンが、思いのほかスポーティな咆哮を聞かせてくれるからでもある。が、もっと大きな意味で、やはり日本人の感覚からすれば相当な距離でも、移動手段のファーストプライオリティがクルマにある国で生まれたクルマに、あらかじめ備わった資質なのだろう。

もっとも、後席に関していえば話は別である。心地良いホールド感のシートに座り、ヨーロッパの立派な体格のVIPの背中をも揉みほぐさんと設えられた強力なマッサージ機能をオンにすれば、夢の世界へと誘われるまでは、まさにあっという間なのだ。

(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年3月)

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