第254回:レクサスセンター長との禅問答“高級”とはなんぞや?

2006.02.20 エッセイ

第254回:レクサスセンター長との禅問答“高級”とはなんぞや?


第254回:レクサスセンター長との禅問答“高級”とはなんぞや?

■“高級”が氾濫している

長年温めていた(!?)隠しネタを公開いたしましょう。
それは昨年末のお話。とあるイベントで偶然、レクサスセンター長の吉田健さんとお話する機会があったのだ。しかもわがロールスを挟んで! ちなみに吉田さんとは以前「カローラ」の主査をやられていたトヨタの出世頭であり、現常務役員。要するにレクサスプロダクトの行方を握る超重要人物である。

ってなわけで素朴な疑問をぶつけてみました。以前レクサスGSに乗ったとき、正直、どこが高級かあんまりわかんなかったんでね。

コージ:ところで吉田さん、“高級”ってなんなんでしょう。
吉田:その言葉はいま言っちゃイカンと思ってます。混乱しますから。世の中に高級という言葉が氾濫しすぎてて、我々が目指すものとは違ってきてるんです。
コージ:というと?
吉田:2年前からヨーロッパに行ったり、アメリカのお客様のところに行って、レクサスブランドが14年間やってきたことをみてきたわけですが、やはり向こうでプレミアムといえば、ヨーロッパの高級車であり、木目、本革の世界なんですね。でも、それはもはや安心感であって、20世紀の高級だと思う。我々はこれからの高級、21世紀にふさわしい高級を追い求めるべきであって、それがレクサスブランドの使命であり、いろんなアプローチをして一番いいものを、新しいものを見つけなければならないんです。
コージ:それって言葉でいうのは簡単ですが、実際は凄く難しいですよね。正直、GSはカタチもインテリアもよくわからなかったんです。悪くはないんですけど、特にガツーンとこなかったというか……。
吉田:いいんです。レクサスはこれ見よがしではなくて、もっと乗ればわかる、感性に訴えるものを狙っているわけですから。ただそれはハッキリいってすごく難しい。ものすごく難しいんです。まずはデザインコンセプトの「L-finesse(エルフィネス)」を作って、本当のクルマをGSでやって、今度出るLSで完成させる。それがファーストステップです。

吉田さんが持っていたカード。中にはレクサス・フィロソフィーがズラリと書いてある。いわゆる“お経”だ!
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■レクサスは“アート”だ

コージ:まずはとやかく言わずLSを見てくださいと。なるほど。でも、正直“今までにない高級”って理想論じゃないですか。“これみよがしじゃない高級”って、これみよがしだから高級なんじゃないですか?
吉田:そんなことはないです。レクサスは“アート”なんです。高級というより心地いいもの、高い安いじゃなくて、心に訴えるものなんです。キライなものはキライ、好きなものは好き、アートとはそういうものですから。
コージ:高級じゃなくって“アート”か。そう言われると理想像はわかるんですが……。で、レクサスが狙うアートってなんですか?
吉田:あえて言葉にすれば“先進”と“洗練”です。つまり“アドバンス&ソフィストケーテッド”。それがレクサスが目指す「L-finesse」なんです。
コージ:その「L-finesse」って奴が特にわかりにくいんですけど。話は変わりますが、「ホンダNSX」が出てきた時に“誰にでも乗れるスーパースポーツ”を目指しました。俺は今、それ自体が間違っていたと思うんです。お金持ちは“俺にしか乗れないスポーツカー”を求めるんであって“誰にでも乗れるもの”は全然欲しくない。それが最大の失敗だった。それと同じで“これみよがしでない高級”つまり“見栄を張れない高級”は欲しくない。つまり「微笑むプレミアム」というテーマ自体が矛盾しているような気がするんですが。
吉田:そんなことはないです。それは20世紀の高級ですから。今はいわば “ニューマネー層”が出てきてます。みせびらかす高級ではなく、自分のために、家族のためにお金を使う人。つまり本物志向の人が増えてきてるんです。それは従来のお金持ちの2、3代目だったり、IT長者の人たちとかですね。彼らは“オールドマネー層”とは明らかに違っていて、リサイクルに気を使い、安全、思いやりがあり、人間を大事にする。そういう人たちなんです。世の中変わってきてるんですよ。
コージ:確かに最近の若い金持ちで金歯ギラギラって人は少ないんですけど、でも結局、たたき上げのボクサーとか消費者金融でガツンと儲けた人が多いような気もしますが。そういう人が実は高級車を買うんでは……。
吉田:いや、今は逆転して半分以上の人がニューマネー層です。
コージ:じゃ、レクサスはそういうお金持ちを狙うんですね。
吉田:そうですね。わかる人だけがわかる21世紀のクルマですから。

かなり冷静に評価されていました。もはやロールスは敵じゃない!?
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■破綻のないデザインと、回答

コージ:なるほどね。ちょっとわかってきました。ところで吉田さん自身はずーっと「カローラ」を作ってきた人ですよね。それがいきなり、コンセプトが正反対のレクサス作ってつらくないですか?
吉田:お客様の期待値が違うのかもしれないですよね。レクサスソサエティが違うのかもしれない。ただ、ヴィジョンは似ているといわれていて、カローラは世界に普及する3ボックスのクルマを作ろうとしたわけで、レクサスは世界に普及するブランドを作ろうとしているわけです。そこにそんなに大きな違いはない。僕はマスは比較的得意ですから(笑)。
コージ:ふーん、俺には今ひとつ難しいけど、結構同じ仕事なんですね。ところでこないだレクサスの開発者に会ったら、わりと偉い立場のヒトなのに900円ぐらいのカシオのデジタル時計をしてました。ハッキリいって不安になっちゃったんですけど(笑)。
吉田:いいんですよ、それで。レクサスは従来型の高級は狙ってないし、そもそもフェラーリの開発者はフェラーリ乗ってますか(笑)。違うでしょ。肝心なのはフィロソフィーであり、技術なんです。
コージ:うーん、とりあえずどんな質問にも答えられるような理論武装はしてるんですね(笑)。俺ももうちょっと勉強してこないと。ところでこの俺の72年式ロールスロイスですがどうですか? ハッキリ言って20世紀の高級も高級、その権化みたいなクルマですけど。参考にはならない?
吉田:そんなことないです。参考になりますよ。とにかくスキがない。たとえばこのインパネのメーターの角の丸さとか、そういうものがすべて一緒、統一されてるんです。ウッドがどこそこのカナダのウォールナットとか、そういう素材面を言ったらつらくなるけど、高級とはそういうことではない。すべてにおいてスキがないこと、破綻がないこと、それもレクサスが目指す高級のひとつですから。単純だけど温かみがある、シンプルだけど美しい、レクサスが目指すものはそういうものです。
コージ:うーん、また出直してきます(笑)。

やはりさすがはレクサスのボスで、俺なんかの質問にはほぼ破綻することはなかったのだが、とにかくレクサスが狙っているものがかなり素晴らしいものだと同時に、難しいということがわかった。ようするに“理想論”に近い。それは世界に通用する、しかも日本の感覚に基づく高級を目指している。いやー、とにかくがんばってください。8月の「LS」を楽しみにしてますよ! としかいいようがないですね、こりゃ。

(文と写真=小沢コージ/2006年2月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』