第253回:三菱 i が売れてるってホント?驚きの“ジョン・マッケンローの法則”

2006.02.15 エッセイ

第253回:三菱 i が売れてるってホント?驚きの“ジョン・マッケンローの法則”

チーフエンジニアの岩男さん。すごい謙虚な方でした。見くびっててスイマセン!
チーフエンジニアの岩男さん。すごい謙虚な方でした。見くびっててスイマセン!
デザインはカッコいい。色味がもうちょっとハデだと……。
デザインはカッコいい。色味がもうちょっとハデだと……。

■三菱のイケナイ理想主義!

ごめんなさい! スイマセン! ハッキリ言って見くびってました、侮ってました「三菱 i (アイ)」。そう、ご存知、新生三菱自動車入魂の一作で、久々の斬新なリアミッドシップの軽自動車なんだけど、俺はまず間違いなく“失敗する”と踏んでたわけね。それは試乗前も試乗後もそうで、なぜってあまりに「理想主義的」だから。今、軽で当たり前のFFレイアウトを取らず、最新技術でもってエンジンを後部座席の下、つまりリアミッドシップに搭載し、スタイル、衝突安全性、スペース、走りを両立させましょうという狙いで、実際乗って、確かにその通りにできてる。多少の不満もあるけど、三菱ヤルじゃん! 素晴らしい! となったわけです。

でもね。俺は逆にその理想主義者加減に「あー、まだ三菱って昔と体質変わってないんだぁ」「根本的問題は解決されてないじゃん」とガッカリもしたのです。
というのも三菱自工という会社は昔から技術オリエンテッドなメーカーで、デザインにしろ、作りにしろ理想主義傾向が強い。それがゆえに三菱はダメだと俺は判断していたからだ。具体的には、一時期の直噴GDIエンジン頼りの戦略や、空力優先のデザインなど。ま、言ってみれば猪突猛進でガキっぽいのよ。それが良さでもあるんだけど。

もちろん最近の不振は一連の不祥事がきっかけ。だけど、それ以前に三菱が高い技術を持っているのに日産、ホンダ、時にはマツダにすら販売で負けてしまうのは、そのエンジニアの青臭いがまでの理想主義、つまり“テクノロジーのマスターベーション”が災いしていると考えていた。
要するにビジネスマンとしてはアマチュア、商売に徹しきれてなかったと思うわけよ。それは三菱グループに守られているからこその甘えであり、本来なら俺は、トヨタの“あざといまでのコンセプトメイキング”や、スズキの“乾いた雑巾をなおも絞るくらいのコスト感覚”を学ぶべきだと思っていた。


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ラゲッジは普通にある。エンジン入ってて床高めだけど……。
ラゲッジは普通にある。エンジン入ってて床高めだけど……。

■クルマのデキは大絶賛

具体的には i を作るくらいなら「eKワゴン」をベースに極端にスタイルにふったクルマを“安く早く”作り、とりあえず開発資金を稼ぐべしと。余裕ができたらiみたいな好きなクルマを作ればいいじゃないかと。そんな風に考えていたわけです。
ところがどっこい、三菱はバリバリの逆風のさなかにこのリスキーな i を開発し、発表。なんて青臭い奴なんだ! 全く懲りてない! と思ったわけ。

軽くインプレいっとくと、i はスタイリングよろしく、インテリアも未来派志向でカッコイイ。肝心の室内スペースは聞けば従来型FFの軽、つまり「ダイハツ・ムーヴ」なんかより室内長で6cmも長く、実際リアシートは相当にゆったり。走りだけど、新開発の660cc直3エンジンはパワーの出方や回り方もキモチよく、ストレスほとんどなし。乗心地も良好で、驚くべきはステアリングフィール。さすがに軽量&高剛性なミッドシップカーらしく、ヘタなスポーツカー顔負けでナチュラルで、マジキモチいい。もうこれだけでも欲しいと思ったくらい。

欠点らしい欠点といえば、エンジンリア搭載によるラゲッジルーム底面の高さと、4000rpm以上回した時のエンジン音のうるささ、さらに高速道路での横風に対する弱さ。それに、慣れない人にはステアリングが軽すぎるように感じる点や、今ひとつジミな色使いのインテリアなどなど。まあ挙げれば結構多いんだけど、それほど本質的ではなく、クルマのデキとしては大絶賛なわけです。

エンジンはキモチよく回ります。回しすぎるとややウルサイけど。
エンジンはキモチよく回ります。回しすぎるとややウルサイけど。
驚きのリアシート。十分快適ですがな。
驚きのリアシート。十分快適ですがな。

■うれしいハズシ

ただね。最大の問題はお値段なんだよね。なんせ「ダイハツ・エッセ」が70万円以下で出る時代に、i は一番安くても130万円弱。ハッキリいってこのクラスでは平均より30万円は高く、これは致命的なのだ。なぜなら軽自動車は“理念”ではなく“サイフ”で買うクルマ。つまり「より本質的にいい」よりも「あと1万円安くして〜」が重要な世界なわけです。それがスポーツカーならいざしらず、“いいけど高い”それも“欠点含み”じゃ買う奴いないだろ! と。

しかもこれにはいい先達もいる。それは俺も持ってる「スバルR2」。かなりカッコいいけど、値段やや高めだったりリアシート狭めだったりすることで、売れ行きイマイチ。言うほど売れてないわけじゃないけど、とにかくクルマで最も大切と言われるスタイルを最優先し、他をちょっと犠牲にしただけでこの仕打ち。カッコいいのがそんなに悪いのか〜って厳しい世界なのだ。この軽自動車界は。

だからそれ以上に理想を追求した三菱 i 。もちろん同じようになるよ〜って思ってたわけ。確かにリアシートは広いけど、うるさめだし、各部タッチは全く持って軽っぽくないし、全体R2以上にヘン。売れて同じぐらい、いや、もっと売れないか? とすら思ってたわけ。

ところがリリース見てビックリ仰天のテン! 発売約2週間で受注1万台突破! で、勢いはまだ続いてるそうな。もちろん、本当に大成功と言われるためには今後少なくとも1年間はヒットし続けなければならない。ただ、初速だけでも俺にとっては驚きも驚き、“予想屋”(!?)としては完全失格なのです。うれしいハズシだけどね。

ちょっとスマートに似すぎてるのがタマにキズかな?
第253回:三菱 i が売れてるってホント?驚きの“ジョン・マッケンローの法則”

■赤信号の時こそ全開で前進!?

そしてね。この現象を見て、俺はとある勝負師の言葉を思い出したんだよね。それは我が青春のテニスヒーロー、ジョン・マッケンロー!
彼はとある著作でこう書いていた。試合の流れには青信号、黄色信号、赤信号ってのがあって、勝ってる時、優勢な時、つまり“青信号”の時にはこちらも青信号で行く。もしくはゆっくり目の全開。で、徐々に追い込まれ“黄色信号”になったらこちらも黄色信号で行く。ようするにセカンドサーブでエースは狙わない安全策。

ところが本当に追い込まれた時、つまり“赤信号”になった時は、逆にこちらの姿勢は思いっきり青信号、つまり“大全開”! 要するにセカンドサーブでエースを取りに行くし、思いっきりリスキーなリターンエースを狙うのだと。

つまり、今の三菱の状態は“赤信号”。ここで彼らは我が愛しのマッケンロー様と同じく、リスキーなエースを取りに行く賭けに出たのである!
もしかしてその賭けは成功し始めているのかもしれない。本当のところはまだわかりませんけど……。でもまぁ、とりあえず三菱株でも買っときますか? って感じにはなってきてますね。

(文と写真=小沢コージ/2006年2月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』