【スペック】全長×全幅×全高=3395×1475×1470mm/ホイールベース=2390mm/車重=720kg/駆動方式=FF/0.66リッター直3DOHC12バルブ(58ps/7200rpm、6.6kgm/4000rpm)/価格=92万4000円(テスト車=100万2750円/ABS=3万1500円/プラズマクラスター=1万5750円/13インチアルミホール=3万1500円)

ダイハツ・エッセX(FF/4AT)【試乗記】

カワイさの陰に地道な努力 2006.01.17 試乗記 ダイハツ・エッセX(FF/4AT)……100万2750円ダイハツが新たに発売した軽乗用車「エッセ」は、「ミラ」よりも少しオシャレで経済性にも優れる、という位置づけ。スズキとの販売競争の最前線に投入される戦略的モデルに乗った。

コストダウンの限界!?

「“カタヒ”が浮きますので、そのぶん安くできます」
内装の上半分の内張りをなくしたことによるコストダウン効果を尋ねたら、エンジニアからそう答えが返ってきた。いきなり怪しい専門用語での説明である。これは「型費」、つまり金型を作る費用、という意味なのだった。なるほど、パッと見は安っぽい感じのしない「エッセ」であるが、こういうところでコスト削減を図っているわけだ。

軽自動車とて、求められる基本性能は1000万円の高級車となんら変わるところはない。それでいて価格は限界まで下げることを求められる。現在、ダイハツはスズキと売り上げ日本一の座をめぐって熾烈な販売競争を繰り広げているから、要求水準はシビアなものになる。エッセの最安値グレードの「ECO」は、68万2500円。これは、スズキ「アルト」の廉価版とまったく同じ価格である。どうもこのあたりが、コストダウンの限界らしい。

ダイハツにはこれまでも「ミラ」というベーシックな軽自動車があったわけだが、この実用性重視のどちらかというと素っ気ないモデルに対し、エッセは「シンプルでオシャレなカジュアルミニ」をコンセプトにしているのだそうだ。黒木瞳をCMキャラクターに起用しているあたりにも、その意図がよく表れている。それでいて、経済性も確保しなくてはいけないという、なかなかに意欲的な使命を担っているのだ。

金のかかっているエンジン

『NAVI』では口の悪いシオミ隊長が「ダイハツ・マーチ」なんて書いていたが、ふっくらとしたカタチは女子にウケそうな優しげな表情を見せている。パステル系の効かせ色を配した内装も、女性狙いを明確に示しながら、一昔前の女性仕様のような嫌らしさは感じさせないのは好感が持てる。しかし、ダッシュボードの材質は何かで見たことがあると思ったら、件のマーチとそっくりだった。デザインでコストダウンしてはいけない。

金がかかっているのは、意外にもエンジンである。ボンネットの下に興味のあるお客さんは少ないだろうからあまり派手に宣伝していないのだが、20年ぶりの新エンジンになるらしい。従来の「EF-VD」から「KF-VE」となり、3気筒12バルブは同じだが、ロングストロークになったのが大きな変更点である。ボア×ストロークが68.0×60.5ミリだったのが、63.0×70.4ミリに変更された。他社がショートストロークを採用する中、ひとり逆方向に足を踏み出したのはなぜか。

ロングストロークのメリットは、低中回転域のトルクを得やすいことといわれるが、反面ピークパワーは出しにくい。また、ピストンスピードが上がるため、各部に大きな力がかかってしまう。エンジニアの話では、ピストンリングの強化、ジャーナル剛性の増強などで、レブリミットも前のエンジンと同じにできたという。そして、ボアが小さくなったにもかかわらず、バルブ径を落としていないので、吸気効率の面でも問題はない。結果、出力は2馬力下がったものの、トルクは同等の数値を確保している。発進加速性能では、0-30メートルがミラでは4.4秒なのに対し、4.2秒と上回っているのだ。

写真をクリックするとシートが倒れるさまが見られます。



ちょっとレトロカーっぽい

会場がたまたま以前「ミラジーノ」の試乗会が行われた「かずさアカデミアホール」だったので、同じ道を走って比べることができた。近くにある高倉観音の参道はかなりの急坂で、ミラジーノは息をきらせてあえぎあえぎ登っていたのだが、エッセはこともなくスイスイと走っていく。こういう場合にものをいう、低中回転域のトルク特性がかなり改善されたのだろう。力強い、とまでは言わないけれど、不満のない走りである。エンジン音は、なかなかに豪快な男らしい響きで、結構気持ちがいい。しかし、黒木瞳はどう思うんだろう。

ハンドルを切ってからクルマが曲がりだすまでには、少々タイムラグがある。常に小さな振動が伝わって、腰を直撃する。シートのクッションは薄く、座面長は前後席とも足りない。荷室のカーペットをめくったら、ホッチキスで留めてあった。などなど、不満を言い出せばキリはないが、明るい室内を眺めていれば、心が華やぐ。冒頭で触れた、コスト削減のための内装上半分の内張りが省略されているのも、ちょっとレトロカーっぽくて好感が持てる。そういえば、「クーペフィアット」や「バルケッタ」が、狙いで採用した手法だった。

100万円を大幅に切る価格で、「カワイく」「高性能な」クルマを提供する。日本のお家芸とも言うべき物づくりの手法なのだ。そして、陰で行っている地道な技術開発がそれを支えている。クルマ好きにアピールする種類のものではないけれど、敬意を表するのに躊躇はない。

(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年1月)

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