第234回:「ファンカーゴ」はなぜ消えた!「ラクティス」開発者に聞いた、恐るべきトヨタの新開発ロジック

2005.10.14 エッセイ

第234回:「ファンカーゴ」はなぜ消えた!「ラクティス」開発者に聞いた、恐るべきトヨタの新開発ロジック

■モデルチェンジがないクルマたち

いやぁ、おでれぇたおでれぇた。先日行った「トヨタ・ラクティス」の試乗会で、驚きの新事実があったのだ。それはラクティスが“ファンカーゴの事実上の後継車”だということ。つまり、あの名前はアッサリ消えてしまうのだ。えー、ファンカーゴ、人気もインパクトもあったのにぃ。俺なんか初代が出た時、車内でワンルームマンション生活とかしたんだよ、ちゃぶ台とか広げて……。

まあ、とりあえずは辣腕チーフエンジニア、多田哲哉さんのお話を。ちなみに多田さんとはこれまで「bB」や「ラウム」を担当してきたヒーローエンジニアで、前回の東京モーターショーでは「PM」など1人乗りのコンセプトカーを担当したトヨタきっての夢追人。「未来のクルマ語らせたらやめられない止まらない」という“大人の少年”なのだ。ついでに保坂尚輝バリのイイ男だったりもする。これまた一種の“才能の一極集中” だよね。

小沢:えー、いきなり素人発言なんですけど、これってファンカーゴの後継なんですか?
多田:販売店的にはそうなると思いますが、開発してるほうとしてはそう考えておりません。トールボーイ系の全く新しいクルマとして作ってましたから。
小沢:えっ、そうなんですか? 作ってるほうは自覚してないけど、これはファンカーゴの後継であると。
多田:そうです。このクラスには基本的にモデルチェンジがないですから、その時代時代の事情に合わせてクルマを作って、結果的に名前のイメージが合えば使うという風になっています。たとえばbBなら、後継車は作らないけど、たまたまbBのイメージを引き継ぐクルマが生まれたら使うという……。
小沢:えー、基本的にモデルチェンジがない! すげぇ考え方ですね。ということはつまり“ファンカーゴ”はなくなってしまったと?
多田:そういうことになりますねおそらく。
小沢:なんかもったいなくないですか? ファンカーゴ、凄く浸透してたのに。俺の知り合いの若いコなんて「ネコバスみたいでカワイ〜」なんて騒いでたんですよ。

■対抗はスポーツカー

多田:それもわかりますが、時代が変わってしまったんですよね。ファンカーゴが出た時は、8〜9割が1.3リッターのローグレードをお求めになって、セカンドカー的に使われていたんですが、最近は経済状況が変わり、遊びも増えて、ファーストカー的に使う人が増えてきた。奥さんだけでなく、ダンナさんもこれ一台というケースが増えてるんです。
小沢:それで「ラクティス」なんですね、いわば“豪華なファンカーゴ”。
多田:カンタンに言ってしまえばそうです。ファンカーゴの広さ、使い勝手の良さを保ちつつ、新たにスタイルの良さと走りが提案できないかと。
小沢:でも、申し訳ないですけど正直、このクラスで“スタイル”と“走り”といっても陳腐な気もしますが。そうそう新しくないというか……。
多田:その発想が違うんです。「背が高いクルマの中では走りがいい」ではなくて、「思い切り気持ちよく走れるクルマ」だと。
小沢:ってぇことはつまり、スポーツカー対抗?
多田:理想的には、そうです。異論反論あるでしょうが、そのために道具だてから換えて、タイヤを思い切り大きく、全車16インチにしましたし、ブレーキもサイズアップして、重心もできる限り低くしました。全高は6センチも低くなって、それでいて室内空間はファンカーゴより広いんです。
小沢:スタイルは?
多田:フロントに大胆なエッジをつけて、全体的には弾丸のようなイメージで……。
小沢:“弾丸”っていうより“おサカナ”っぽいと思ったんですが。横から見ると。
多田:スタイルは個人個人の感じ方ですからねぇ……(苦笑)。

■スーパーファンカーゴが欲しかった!

小沢:しかし、繰り返しますがまさか“ファンカーゴ”を捨てるなんて……。名前の価値、ひいてはクルマの価値がすぐ変わる、ますます刹那的な世の中になってるってことなんでしょうね。
多田:それはそうでしょう。価値を延々と引き継げるということでは、「カローラ」「クラウン」ぐらいしかなく、あのクラウンですら仕切り直しの“ゼロクラウン”ですから。ファンカーゴだったら、さしずめ“ゼロファンカーゴ”どころか、“マイナスファンカーゴ”ぐらいが求められていたんです。
小沢:逆に「ルノー・カングー」みたいに、思い切って実用度を増やすって方向はなかったんですか、つまり“スーパーファンカーゴ”!
多田:やっぱりそれはマニアックでしょう。ヨーロッパだったらありうるとは思いますが。
小沢:しかし、もったいないなぁ。
多田:もちろんトヨタでも何回も論議したんですよ。役員レベルから「あそこまで定着した名前を捨てていいのか」と。その結果の結論なんです。新しい名前を認知させるのには、物凄くお金も手間もかかるんですが。
小沢:でも、それが逆に“今のトヨタの強さ”なんだろうなぁ。もちろん儲かってるからできるワザというのも……。
多田:(笑)。

さて、肝心のラクティスだが、乗って驚いた。スポーティな1.5リッターモデルに乗ったのだが、コーナリング中のロールはほとんど無いし、乗り心地を確保した上で足はかなり硬め。7段のパドルシフト付きCVTもカチカチ、スポーティな操作感で楽しい。
だいたいインテリアデザインからして、ドライバー中心で、確かに実用車に飽きたオヤジ心をそそるできばえ。でもね。個人的にはトヨタの“スーパーファンカーゴ”、やっぱ欲しかったような……なーんてしつこいか!

(文と写真=小沢コージ/2005年11月)

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』