「スポーツカー冬の時代」なんて、ウソだ! (ホンダNSX)


月刊webCGセレクション10月号

「スポーツカー冬の時代」なんて、ウソだ!
















ドライビングの喜びすべてがある



ホンダNSX-R(MR/6MT)
……1334万2350円

本年で生産中止が決定し、すでに最終販売分も売り切れになった、現行絶版車「NSX」。その最強バージョンである「NSX-R」のスポーツカー魂を、今試す。

意外にコンパクト

こんな感覚は一体どのぐらいぶりだろう? 脳天を突き抜けるような、身体中が痺れるような、この走りの快感。いつ以来のことか思い出せないほど久々に、それを味わわせてくれたのは、「ホンダNSX-R」である。

明け方の編集部で対面したNSX-Rの第一印象は、意外にも、とてもコンパクトだということだった。なるほど実際にそのサイズは、最近の肥大化するクルマの中ではもはや特別大きくはなく、むしろシビックよりも小さいと思えるほどだ。身体にぴたりとフィットするレカロ製のフルバケットシートに身を潜らせてみても、やはり持て余す感じはない。どんどん大きくなっていくフェラーリと較べて、街中が何と楽なことか。














感情を揺さぶる

しかし、それはサイズだけの話である。さすが元祖タイプRだけあって、乗り心地は強烈という言葉がふさわしい。ガチガチのバネに身体は始終揺さぶられ続け、普段は気にも留めない段差すら、痛烈なショックにてハッキリその存在を伝えてくる。おまけにすぐ背後にある3.2リッターV6エンジンが、少なくとも実用域では荒々しいだけの轟音を直接的に伝えてくるから、一般的な意味での快適性はためらいなく0点をつけられる。

その一方で、そんな速度域でも類い稀な軽快感には、既に期待が高まっていた。軽くはないが節度感の適切なクラッチを繋ぐと、ボディは何の抵抗感もなくスッと前に出る。これぞまさしく徹底的な軽量化によって、わずか1270kgに抑えられた車重の効果。さらには圧倒的な高回転型かと思いきや、6速1500rpmあたりからでも加速態勢に入ることができる、3.2リッターエンジンのきわだった柔軟性も、大いに効いていることは間違いない。

とはいっても、やはりその本領が発揮されるのは、思いきりアクセルを踏み込んだ時だ。そのV6ユニットは回転を高めるごとに音の粒が揃っていき、圧倒的なパワーをあふれさせながら、恐ろしくシャープなキレ味でトップエンドまで昇り詰める。そのパワー感、サウンド、バイブレーションのハーモニーは完璧で、この瞬間、大げさでなく頭がクラクラとし、胸が熱くなり、涙まで出そうになった。その鼓動、機械のくせして人間の感情をこれほどまでに揺さぶるのだ。










【スペック】
全長×全幅×全高=4430×1810×1160mm/ホイールベース=2530mm/車重=1300kg/駆動方式=MR/3.2リッターV6DOHC24バルブ(280ps/7300rpm、31.0kgm/5300rpm)/価格=1255万4850円(テスト車=1334万2350円/運転席&助手席用SRSエアバッグシステム=10万5000円/BOSEサウンドシステム=31万5000円/フルオート・エアコンディショナー=31万5000円/プロジェクタータイプディスチャージヘッドライト(HID)=5万2500円)


塩・コショウだけの味付け

登場16年というのが信じられないほどハンドリングは洗練されていて、その限界は公道では垣間見ることすらできない。いつもよりハイペースで駆けまわる程度では、ターンインは軽快だしコーナリング中の姿勢も安定感抜群。そして出口ではミッドシップらしいトラクションを堪能できる。この軽快感から想像するに、サーキットなど限界域では結構オーバーステアなんじゃないかと思うのだが、それを重いがダイレクト感は抜群のノンパワーステアリングと、常に欲しいだけのトルクを瞬時に取り出せるエンジン、そして確実なタッチのブレーキを駆使してねじ伏せて走るのは、簡単ではないだろうが、大いにソソられる。

スポーツカーでもパワーステアリング、2ペダル、車両姿勢制御装置が当たり前の現代では、そのコンセプトは古臭いと切って捨てられてしまうかもしれない。しかし、これら電子デバイスにできる限り頼らずに、クルマとドライバーとの間に密で生々しい対話を可能にしたNSX-Rの走りには、スポーツドライビングのというか、まさにドライビングの喜びのすべてがある。これは断じて懐古趣味などではなく、たとえるなら極上の肉は、下手に料理するより適度な焼き加減と塩・コショウだけで食するのが一番旨いというのと同じ話だ。

ご存じの通りNSXは年内で生産が終了となり、すでに新車のオーダーは締め切ってしまっている。しかし、オールアルミ製ボディによる軽量設計やコンパクトなサイズも含めて、その存在感が今になって輝きを増しているのは皮肉といえるかもしれない。
今言えるのは、いつか再び、またこんなゾクゾクするようなモデルを世に送り出してほしい。それだけである。

(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年10月)




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