復権を目指せ! セダンのなにが悪いんだ!? (トヨタ・エスティマ)


月刊webCGセレクション2006年3月号

復権を目指せ! セダンのなにが悪いんだ!?























移動のための道具としては完璧



トヨタ・エスティマ2.4G 8人乗り(FF/CVT)
……407万9250円

1990年にデビューした“天才タマゴ”「エスティマ」は、日本でのミニバンの先駆者ともいえる。2006年1月に3代目に生まれ変わった新型は、3.5リッターエンジンも用意され、より上級に移行した。カテゴリートップクラスの人気を誇るミニバンで、セダンに無い魅力を確かめる。

フットワークもいい

“スペース効率重視”というミニバンの一般的なイメージとは一線を画す、独自の個性で人気のエスティマ。新型のスタイリングは、パッと見て、すぐに誰もがエスティマだとわかるものだ。しかし、その一方で、従来より全高を40mm下げ、またホイールベースを延ばして後輪を後ろ寄りに置くことで作り出した、低く構えてタイヤが四隅で踏ん張ったフォルムには確実に新しさがある。どことなくスポーティさが増して、新鮮な雰囲気まで感じさせるのだから、登場するや大人気となったのも頷けるところだ。

走りっぷりも、そんな外観の印象を裏切らない。試乗車のエンジンは280ps到達で話題のV6ではなく、170psの直列4気筒2.4リッターだったのだが、トヨタ得意のCVTとの連携プレイは見事。動き出しから身のこなしは軽快だし、速度域を問わないアクセル操作に対する加減速のレスポンスの良さは素晴らしかった。これなら280psじゃなくても全然構わない。同時期に出た「マツダMPV」(NAモデル)は4段ATを使っているが、ドライバビリティの差は圧倒的である。

それ以上に驚いたのがフットワークの良さだ。正直、街中では素直だが薄味なトヨタ流といった印象だが、速度を上げてもステアリングの応答性はきわめて素直で不安感が無い。それどころか100km/hあたりからは、クルマがひたーっと路面に押し付けられるような、極めて高い安定感すらもたらされるのである。もしや、このボディ形状はダウンフォースを生んでいるのか? そう思ってしまうくらいのこの走りには、ちょっとホメ過ぎなようだが脱帽だ。












初代が気になった

ではミニバンを買う理由の本筋である室内はどうか。乗り込んで目の前に広がる景色は、センターメーターを中心に据えた特徴的なメータークラスターなど、いかにもエスティマ流なのだが、デザインは先代ほどトンガッていない。面の平滑性や合わせなど精度感は高いから、不満の出る余地は少ないのだが。

一番の特等席は2列目だ。全高は下がったが、同時にフロアも従来より20mm低くなっているため狭くは感じない。それどころか大開口のガラスサンルーフのおかげで開放感は抜群だ。シートスライドを目一杯下げてDVDでも見ながら過ごしていれば、移動は安楽そのものである。ちなみに7名乗車のキャプテンシート仕様なら、リラックス度はさらに高まる。3列目も頭や肩の周辺に圧迫感は無く、十分快適。オプション装着の電動格納機能を使って、3列目部分をラゲッジスペースに早変わりさせるのも楽々だ。

運転するにしろ乗せてもらうにしろ、あるいは荷物を載せるにしろ、およそ移動のための道具としては完璧。それがエスティマだ。そんな風に感じながら走っていたら、たまたま初代エスティマとすれ違って、いや待てよ、と思った。その瞬間、僕は「今見てもカッコいいな、初代エスティマは」と考えていたのである。






写真をクリックするとシートが倒れるさまが見られます。




【スペック】
全長×全幅×全高=4795×1800×1730mm/ホイールベース=2950mm/車重=1810kg/駆動方式=FF/2.4リッター直4DOHC16バルブ(170ps/6000rpm、22.8kgm/4000rpm)/価格=304万5000円(テスト車=407万9250円/大型ムーンルーフ&サンシェード=8万9250円/クリアランスソナー&バックソナー=4万2000円/パワーバックドア&サードシート6:4分割・床下格納機能付シート=13万7550円/前席SRSサイドエアバッグ&運転席SRSニーエアバッグ&SRSカーテンシールドエアバッグ+ELR付3点シートベルト=8万5050円/HDDナビゲーションシステム<エスティマ・パノラミックスーパーライブサウンドシステム>=66万5700円/ETC=1万4700円)


トヨタ得意の程々感

一体なぜ、まだ初代が羨ましいのか。ひとつには、新型は道具としての機能は完璧でも、そこに気分を高揚させる部分が今ひとつ希薄だからではないだろうか。走りの実力は素晴らしいが、五感は刺激されない。室内の見栄えや使い勝手も練られていて望みはすべて叶えてくれるけれど、思っていた以上の驚きや歓びはもたらさない。たとえば先に書いた運転席まわりのデザインもそうだし、じっくり見ていくと、トリム類のソフト素材の使用部位の少なさや、手の触れない、あるいは普段はそんなに目に触れないシート下側などの素材感や見栄えが切り詰められていることに、コストカットの努力がうかがえてしまったりする。

元々はエスティマ、そういう生活感漂う日本のミニバンらしさとは、もっとも縁遠い存在ではなかっただろうか。むしろ当時のセダン達より、洒落ていて贅沢で……。あのパッケージングとデザインの衝撃は、2世代を経て薄まってしまった。今やすっかりヒエラルキーに組み込まれてしまったエスティマの存在感は、せいぜいミニバンの中ではスペシャルだというくらいにしか思えない。
言ってみればエスティマは、かつての「マークII」なのだ。程々のスペシャリティ感をもった、けれど皆が欲しているミニバン。本当に、トヨタはこういうのを作らせたら天才的だ。

でもなぁ……と、それでもアナタは思うだろうか。いやいや、そんなアナタのことも、トヨタは抜かりなく考えている。そう、先代と同じくエスティマハイブリッドも、追って登場の予定である。

(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年3月)




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