復権を目指せ! セダンのなにが悪いんだ!? (日産ブルーバードシルフィ)


月刊webCGセレクション2006年3月号

復権を目指せ! セダンのなにが悪いんだ!?















小さな市場に逃げ込むな!



日産ブルーバードシルフィ20M(FF/CVT)
……237万5100円

3種のカテゴリーには、それぞれ選ぶ理由があった。ではセダンにはそれを上回る魅力はないのだろうか?不振の原因を「日産ブルーバードシルフィ」で検証する。

カッコ良さがセダンの理由

「エスティマ」や「アウトランダー」のような完成度の高いミニバン、そしてSUVを経験してしまうと、少なくとも走りの良さは、もはやセダンを選ぶ理由として挙げるには弱いと言わざるを得ない。緊急回避などの面では、物理的にまだ優位だとしても、アンチスピンデバイス付きならその差もごくわずか。着座位置の高いクルマに較べると運転姿勢に安心感を覚えるという人は少なくないだろうが、それはあくまで運転手という立場ではの話。同乗者の大半にとっては、目線は高いほうが閉塞感が無くて快適だったりする。

それでもなお、一体何がこの2006年にセダンを選ぶ理由となり得るのか。ひとつ有力な要因となるに違いないのが、オーセンティックなスタイルが醸し出すフォーマル感だ。それは、今やスペシャルティ感と言ってもいいのかもしれない。セダン全盛の時代にクーペがそうだったように、敢えてちょっと不便でもカッコ良さを優先して選ぶ存在が、今のセダンなのではないか? そして、そのカッコ良さとは、まさにそのちょっと不便でも敢えて選んだと知れるところであったり、あるいは多くのプレミアムカーの主力が、このセダンフォルムであったりすることなどから導き出されるものではないかと思う。














「悪くない」だけじゃもの足りない

ブルーバードシルフィは、今のそうしたセダン事情にフォーカスしたクルマだ。人気の高い「ティアナ」との血縁を感じさせつつ、より優美な雰囲気のスタイリングや、貝殻のようなシェイプの凝りに凝ったシート形状は、空間的な広さやシートのアレンジ性を考えたクルマでは出てこない発想。それだけで、確かにちょっと贅沢な感じがしないではない。しかも広さや快適性といった観点で見ても、2700mmというロングホイールベースによって、特に後席やその足元スペースに広大と言っていいほどの余裕が持たされているなど、とても充実している。仮にエスティマから乗り換えたとしても、この後席なら大きな不満には思わないのではないだろうか。

走りっぷりも、ステアリングの手応え、応答性ともに素直だし、何とこれもCVTと組み合わせた2リッターエンジンのもたらす動力性能は十分。乗り心地は期待ほど良くはなく、路面の細かな凹凸を拾いがちだが、ストレスなく乗れる性能という意味では全般によくできている。

ならば、そんなブルーバードシルフィには、ミニバンやSUVではなくコレをこそ勧めたく魅力があるのかと言えば、でもやっぱり正直難しいところはある。確かにすべてに過不足ない。けれど「今まで、ずっとセダンだったから……」という消極的な選び方ではなく、コレじゃなきゃダメなんだと思わせる部分は、やはり希薄だと思うのだ。たとえば、インテリアに凝るならもっと徹底的に、フェイクでいいからレザー張りを多用して、ウッドパネルも全部、本木目だったなら。あるいは悪くはない走りっぷりが、悪くないどころか上質で懐深いものであったなら、他では味わえないセダンならではのスペシャルティ感が、より一層際立って感じられたかもしれないのだが。






【スペック】
全長×全幅×全高=4610×1695×1510mm/ホイールベース=2700mm/車重=1220kg/駆動方式=FF/2リッター直4DOHC16バルブ(133ps/5200rpm、19.5kgm/4400rpm)/価格=199万5000円(テスト車=237万5100円/インテリジェントキー&エンジンイモビライザー=5万7750円/カーウィングス対応TV/ナビゲーションシステム=32万2350円)



ミニバンが欲しい人に、セダンを勧める材料は無い

これは特集の前口上への回答だが、皆が今、セダンではなくミニバンを買うのは、必要に迫られたからではないのだ。いざという時、それこそ年に1度でもサードシートを使う機会があるかもしれないと思ったら、それだけで既にミニバンを選ぶ十分な理由になる。言ってみれば、必要性ではなく可能性を買っているのだ。とりわけ子供のいるファミリーであれば、その可能性はグンと高くなる。本当にサードシートや大容量のラゲッジが役立つ時があれば、「あぁ、ミニバンを買って本当に良かった」という気持ちになれるという具合だ。

そんな中でセダンを買ってもらうには、そうした満足感への可能性を圧してでも買いたくなるような理由がなければならない。たとえば内外装や走りの上質感だったり、あるいはまったく別のことでもいい、とにかくミニバンやSUVでは味わえない圧倒的な何かが。そうでなければ、少なくとも僕には、ミニバンが欲しいと言っている人に、セダンのほうがいいと勧める材料は無い。

しかし、逆にそうやって積極的に勧められるクルマがあれば、セダンへのニーズはまだ喚起できると信じる。これだけ皆がこぞってミニバンを買っているのだから、近所の家族との旅行の時も、きっとそっちの家がミニバンを出してくれるだろう。ならばウチはセダンでいいじゃないかとなる可能性だって、まだなくはないはずである。

売れないからといって、自ら年齢やら何やらでターゲットを絞り込んでさらに小さな市場に逃げ込んだりせず、思わず買いたくなるセダンの登場。僕はまだ待ってみたい。
企画の趣旨から外れそうだが、何がスタンダードでも僕は別に構わない。けど、何だかすでに諦め顔の最近の多くのセダンには、どうにも納得できないのだ。

(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年3月)




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