GMテックツアー〜GMと提携企業の先進技術説明会

2003.10.17 自動車ニュース

GMテックツアー〜GMと提携企業の先進技術説明会

米ゼネラルモーターズ(GM)は、日本の提携企業であるスバル(富士重工業)、スズキ、いすゞとともに、クルマの環境対応技術に関する説明会「GMテックツアー」を、2003年10月7-10日に開催した。水素、燃料電池に力を入れるGMが、その普及に向けて行う活動の紹介、燃料電池車をはじめとするコンセプトカーに試乗する機会が設けられた。


ハイ・ワイヤーは、両側観音開きドア

■GMの目標

世界の自動車メーカー各社は、環境問題に対応する次世代技術として、燃料電池車の研究開発に力を入れている。2002年には、ホンダ「FCX-V4」とトヨタ「FCHV」が、翌年にはメルセデスベンツ「Aクラス」ベースの「F-Cell」が、国土交通省の認可を受けて公道試験を開始。“未来のクルマ”が、いまわれわれの身近な場所でテストされている。

自動車メーカーのトップに君臨するゼネラルモーターズも、燃料電池車の開発に積極的だ。1997年の活動開始以来、10億ドル(1000億円以上)を投資。03年7月から、日本でオペル「ザフィーラ」ベースの燃料電池車「ハイドロジェン・スリー」が、流通大手フェデラルエクスプレス社の配送車として試験利用されている。限定的ではあるが、実用にこぎつけたわけだ。
しかし、GMは現状に満足していない。大量生産によってコストダウンを図り、2010年までに採算ベースに載せる構想を掲げる。燃料電池車が「消費者の手が届き、GMが収益を得られる」生産ラインは100万台。目標に向けた、様々な活動を行っているという。


エンジンなどがないため、足元はボディ前端まで広々。床もフラットだ。

水素を使う燃料電池は、水のみを排出するため環境に優しい。供給原料は豊富だから、石油のような化石燃料にある枯渇問題とも無縁と、社会的、環境的なメリットが大きい。
一方、普及には多くの課題が残る。高い燃料電池のコスト、大量水素貯蔵システム、水素供給インフラの開発などがそれらだ。

GMは、このような課題に対応する方策も説明した。量産化によるコストダウンと、生産技術向上で燃料電池の一般化を図るべく、大手化学会社のダウ・ケミカル社と提携。同社の化学プラントから排出される水素を利用した、燃料電池発電設備をつくる計画に合意した。インフラについては、石油会社のシェル・オイルと提携して水素ステーションを建設するなど、水素燃料と燃料電池の実用化に向けた準備を進めている。


センターパネルに、P-R-N-Dのシフトスイッチがある。

■概念を変えるバイワイヤー

GMは、燃料電池車は社会的意義のみならず、クルマに自由や、新しい価値を提供すると力説する。その具体例が、同社がつくった燃料電池車のコンセプト「オートノミー」と、オートノミーコンセプトにもとづいてつくられた「ハイ・ワイヤー」だ。




オートノミーは、スケートボードのような“台車”に、燃料電池やモーターを組み込んだユニット。エンジン搭載位置などの制約がないため、ボディ形状やパッケージングの自由度が高い。ハイ・ワイヤーは、ベルトーネの手になる、観音開きの4枚ドアをもつハッチバックボディ(?)を載せる。
さらに、アクセルやブレーキ、ステアリングなどの操作系を、電気信号が各ユニットを制御するバイワイヤー方式としたことも特徴だ。デバイスからの入力を電気信号に変換し、電線(ワイヤー)を通じて、アクセルやブレーキ、ステアリングを制御する。シャフトやギアでつなぐ必要がないため、操作デバイスの位置や形状を自由にレイアウト可能。ハイ・ワイヤーはスイッチで、右ハンドルと左ハンドルを切り替えることができる。




ハイ・ワイヤーは、旅客機の操縦桿のような「Xドライブ」に操作系を集約した。グリップを外側にねじると加速、握ればブレーキがかかるシステムである。操縦桿の中央に配されたバックミラーならぬバックモニターがSFチックだ。足元にペダル類はなく、電動調節式のフットレストが備わる。


東京、有明付近の公道を走るハイドロジェンスリー

■ファミコン世代は馴染みやすい?

リポーターは、パイロンでつくられた周回コースを、ハイ・ワイヤーで3周ほど走った。世界に1台、時価500万ドル(5億円以上)のクルマを動かすのは、かなり緊張する。
ハイ・ワイヤーの車重は1900kgもあるが、スロットルをひねると、電車が発車する時のような「ミュイーン」という音とともに、意外と鋭い加速を見せた。立ち上がりがトルキーなモーターの特性だろう。グリップ式のブレーキ、左右20度ほどしか切れないステアリングにとまどい、最初は思いどおり曲がらなかったが、すぐに慣れた。自分の意志とコンピューター制御の間に生じる“ズレ”、いいかえると、コンピューターの“クセ”に人間が合わせるトコロは、ビデオゲームの感覚に近いと感じた。28歳のリポーターはファミコン世代だから、すんなり馴染めたのかもしれない。


ハイドロジェンスリーのパワープラント

ハイ・ワイヤーに乗ると、GMが主張する“自由”や“クルマの新しい価値”を想像してしまう。たとえば、指1本で運転できる操作系を採用すれば、四肢に障害のある方もドライブが楽しめるだろう。コンピューターの制御マッピングを変更して、ドライバーごとに操作感覚をチューニングすることも不可能ではない。パイプフレームでロールゲージを組んだ、スポーツカーみたいなクルマがつくれるかも……。GMがいう「クルマの新しい価値」に、想像がふくらんだ。


ごく“普通”のクルマに近いインテリア。メーターは、右が速度計、左はkW表示の出力計。メーターナセル右に、燃料電池の状況などを表示する液晶パネルが備わる。

■誰でも運転できる

もう1台の燃料電池車「ハイドロジェン・スリー」は、オペル「ザフィーラ」のパワートレインを、燃料電池とモーターに置き換えたモデル。2003年7月から、流通大手フェデラルエクスプレス社の配達車として、日本で初めて営業車に認定されて話題となった。
ハイドロジェン・スリーが積む燃料電池+モーターは、エンジンとほぼ同じように搭載できるという。既存のクルマを流用できるため、コストを抑えることができるという。


これがシフトボタン。赤いボタンは「試験車なので、緊急停止用につけてます」

ハイドロジェン・スリーのスペックは、以下の通り。

車重:1590kg
最高出力:60kw(82ps)
最大トルク:215Nm(21.9kgm)
最高速度:160km/h、加速性能(0-100km/h)16秒
航続距離:270km(圧縮水素)、あるいは400km(液体水素)




ハイドロジェン・スリーは、一見普通のミニバン。パッケージングはザフィーラとほぼ同じなのだから、あたりまえだ。外装にフェデックスのステッカーが貼られ、インテリアにオペルのスペシャルカー部門が仕立てたブルーレザーシートを装着することが、見た目の大きな特徴だ。
クルマを始動する手順は、少々複雑である。まず、キーを2ノッチ捻って電源を入れ、コンピューターを起動。約20秒間、燃料電池などのシステムチェックを行い、メーター右側の液晶モニターに状況を表示。問題がなければ、さらにキーをまわして始動する。センタートンネル上に配された三角形のボタンで前進・後退を選択すれば、AT車と同じ要領で走れる。




乗った印象は、普通の電気自動車だった。水素を燃料に電気をつくり、モーターをまわす複雑なプロセスは、乗っていて感じられない。免許があれば、誰でも運転できるのではないだろうか。タンクや燃料電池のコストが高く、市販化にはいたらないが、「燃料電池車を2010年までに採算ベースに」という、GMの構想が現実的に思えた。

(文=webCGオオサワ/2003年10月)

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