時速260km/hでのインターネット通信実験

2003.10.01 自動車ニュース

時速260km/hでのインターネット通信実験

トヨタ「G-BOOK」や日産「カーウィングス」といった、自動車を中心とした新しい情報ネットワークサービスが注目を集めている。
しかし、有線のADSLや光通信ならいざ知らず、移動する車内から、空気中の“電波の道”を通して、安定した大容量のデータをやり取りするまでには至っていないのが実情だ。

来るべき本格的な移動体通信時代を見据え、無線LAN技術を用いた高速移動体通信の実験が、産学協同で行われていると聞き、その場に出向いてみた。

■既存のインターネット技術を応用する

場所は茨城県つくば市にある(財)日本自動車研究所(JARI)。無線ネットワーク機器の製造、販売を手がけるルート(株)を中心に、東京工業大学、総務省系の独立行政法人 通信総合研究所などから通信のスペシャリストたちが集まり、「高速移動体IP通信実験」と銘打ってその実験は行われた。

何やら難しそうな名前だが、「IP(Internet Protocol)」という言葉が示すとおり、現在広く普及している既存のインターネット技術を応用し、高速で移動する車両と通信を試みる、ということなのだ。

全長5.5km、最大45度のバンクをもつ高速周回路の1.5kmの直線部分に、無指向性の無線アンテナを4局設置。アンテナは、一般的なLANケーブルを伝って、コース傍らの建物にある各種サーバーに繋がれる。

テスト車両のホンダ「NSXタイプR」には、サイドガラスにホイップアンテナと呼ばれる無線アンテナ、市販のデジタルカメラ付きコンピューターなどを搭載。NSXが高速でアンテナ間を移動している間に、サーバーとデータをやり取りする、というのが概要である。

■迫力あるオンボード映像

ルートは、既に時速100km/h程度の無線通信が可能な機器を販売している。今回挑戦する速度は、その倍以上の260km/hだ。

レース出場経験のあるドライバーにステアリングを託し、NSXがコースへと向かう。100km/h、150km/hと徐々にスピードを上げ、サーバーと車載コンピューターとの間で、PING(Packet InterNet Groper)というデータの“キャッチボール”を実行する。
ストレートをかすめるNSXは、いよいよ速度を上げはじめる。200km/hを境に、視覚的にも聴覚的にも世界が変わる。250km/hオーバー、通信は途切れることなく行われた。

PINGによる通信が成功したあとは、F1中継などではお馴染みの「オンボード映像」を、インターネット技術でやってみるという、もう少し“ハデ”な実験にうつった。

車両が無線の通じる区域にきた瞬間、NSXのシートの間にマウントされたカメラが、運転席の様子をライブで伝えてくれた。「お、映ったぞ!」と会場は色めきだった。

ちぎれ飛ぶように流れるコース脇の緑、小刻みに動くドライバーのヘルメット・・・・・・モニターに表示される迫力ある景色が、意外に鮮明なのには驚いた。小さい表示域ながらメーターの針も確認できる。これはスゴイぞ!、と思ったのもつかの間、動く画は急に静止し、そのまま通信は途絶えた。

■より簡単に、より安価に

「ハンドオーバーの問題だな・・・・・・」と呟いたのは、東京工業大学大学院情報理工学研究科で講師を務める太田昌孝博士だった。

ハンドオーバーとは、いわば“データのリレー”のこと。車載アンテナとコース脇のアンテナが1対1で通信するため、4本のアンテナ間でデータ受け渡しにもたつくと、データが届かなくなるのだ。

「じゃあ、デュアルウェーブで試してみよう」、太田教授が慌てることなく指示を出す。デュアル、つまり通信するコース脇のアンテナを2本にすることで、スムーズなデータのリレーができるということ。一般のPHS電話でも使われている方法という。

デュアルでの通信は、確かにシングル時より向上していた。しかし、依然として途切れがちなのは否めなかった。
太田博士は、車両アンテナの取り付け位置がそれほどよくなく、ノイズの影響を受けやすかったことを指摘した。高速移動中にノイズが入ると、データの一片が壊れてしまう。動画のような大容量の情報は、その一片が欠けただけでも正しい姿をあらわしてくれないのだ。「でも、予想できていたことですから」と、結果には満足の様子だった。

最後に、今回の高速移動体通信実験の意義について太田博士に聞いてみた。
「IPという既に信頼性のある技術を使うことで、より簡単に、安価に通信ができるということを示したい」。

200km/h以上を一般道で体験することはまずないが、「ITS(Intelligent Transport Systems)」化が進めば、移動中に多くの情報を送受信することも増えてこよう。また鉄道やレース中継のオンボード映像、緊急医療分野での利用も考えられる。

「いつでも、どこでも繋がる」ということが当たり前になった昨今、より速く、より確実な通信を求めた実験は、さらに続けられる。

(webCG 有吉)


助手席側の窓には、ホイップアンテナが吸盤付けされる


ビデオカメラ付きコンピューターが、車内からの迫力ある動画を送る


4本のアンテナは、建物内のサーバーに接続される


途切れがちだったが、動画のクオリティはなかなかのものだった


バイクによる実験も行われた。こちらはカメラではなく、PDAを使っての通信を担当した


このプロジェクトには、通信関連の企業、大学、団体が参画。ルート(株)、東京工業大学、(財)九州システム情報技術研究所、(財)京都高度技術研究所、独立行政法人通信総合研究所(株)スプライト(有)リンクスから、スペシャリストが集まった

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