第64回:ルノー「カングー」に乗って考えた「なんでこんなクルマが欲しくなるんだろう?」

2003.09.04 エッセイ

第64回:ルノー「カングー」に乗って考えた「なんでこんなクルマが欲しくなるんだろう?」

■妙に気になる

急遽、撮影のため、新しいルノー「カングー」を2回ほど借りました。すでに『webCG』で報告されたように、排気量を1.4リッターから1.6リッターに拡大。サンルーフがオプションで付けられるようになって、観音開き式のリアゲート「ダブルバックドア」が選べるようになったんだけど、正直、カッコいいとはいいがたい。冷静に見れば見るほど単なる“荷物グルマ”。

だけど、妙に欲しくなるんだよねぇ。確かに、旧型に較べて普通に速くなった。乗り心地と走りのバランスはイイし、室内の広さは感動的。特に天井のモノ入れの大きさ、便利さは目からウロコが落ちるよう。
でも、逆にこんなに広くて何積むの? っていわれると、個人的にはあまり思い浮かばない。細かいこというと、高速での風切り音はうるさいし、乗り心地も「極上」ってほどじゃない。ブレーキは途中ちょっと空走感あるし……、文句はいくらでもつけられる。
価格は、ハッチバックタイプが192.0万円。ダブルバックドアは195.0万円。輸入車として見れば安いけど、考えようによってはトヨタ「ファンカーゴ」の1.5リッタースタンダードモデルより、45〜48万円も高い。が、妙に気になる存在なのだ。なんでだろ〜?

■部屋でスキー靴

あのね、昔からいわれてることだけど、こういうクルマって“十徳ナイフ”のようなものだと思うんだよね。ナイフはもちろん、缶きりやら爪きり、ハサミとかヤスリなど沢山の生活道具がヒトツにまとめられたコンパクトなアイテム。スイスのヴィクトリノックスとかウェンガーの製品が有名なヤツです。
アレって、冷静に考えると結構必要ない。俺だけかもしれないけど、旅先で爪きりたくなる時ってあんまりないし、ハサミなんかホテルに借りればいい。缶きりが必要になるアウトドアキャンプには、最近行った記憶がない……。だけど欲しいの、十徳ナイフ。旅に行く時には特に欲しくなる。

要するに、観賞、娯楽用のクルマというより「道具」としての魅力が勝っているクルマなのよ、カングーは。「必要なくても使いたくなる」モノなんだよね。
たとえば十徳ナイフの場合、特に最初に手にした頃って、食いたくもないのにリンゴむいたり、切るところないのに爪切ったりしたでしょ? なんちゅーか、初めて買ってもらったスキー靴を部屋で履くようなもん。

そういう魅力って、昔のクロカン4WD系はみんなもっていた。トヨタ「ランクル40」系とか、「スプリンター・カリブ」とかね。
しかし、今や三菱「パジェロ」はすっかりマッチョな高級車になったし、「ランドクルーザー」「プラド」もそれっぽい。「レンジ・ローバー」も昔のストイックさを失って、完全なる高級4WDになってしまった。日産「Xトレイル」はかなり道具感あるけど、やや日用雑貨っぽ過ぎる。それが悪いとはいわないけど。

■“使う喜び”のある道具

しかし、カングーには“その手の匂い”が残っているのだ。クロカン4WDと性質は違うけど、昔ながらの「優秀な道具の匂い」がある。逆にいうと、現在そういうクルマが少ないからこそカングーは魅力的、な気がする。カッコよさとか速さよりも、明らかに「道具性」を優先しているから。
本来、トヨタの「プロボックス」や日産「ADバン」なんかもそうあるべきなんだろうけど、アレだと身近すぎるのか、想像できるのが「疲れた営業マン」か「街の電気屋さん」でしょ。これがカングーになると、“よりよい何か”が想像できる。安直な例を挙げるなら「パリのパン屋さん」かもしれない。けれど、そういうミーハー要因だけでなく、「道具としての純粋性」が勝っているから、よさを感じるんじゃないでしょうか。スタイルや車内のつくりもそうだし、走りと乗り心地のバランスに、純粋な「使う喜び」がある。

日本において、クルマは役割がだんだん細分化されていっている部分があって、大きな荷物の運搬は専門業者がいるし。小さな荷物でも、いまや「宅急便のほうがよっぽど早いよ!」というシーンが多々ある。だから「モノを運ぶためのクルマ」の生きる世界が、だんだんなくなりつつあるのだ。
現代のクルマは、いわばライカやニコンFみたいなマニュアル式カメラにも似て、「使う喜び」が味わいにくくなっているのだ。カングーに残る道具の匂い、つくづく貴重だと思う。

(文=小沢コージ/2003年9月)

新型カングーの試乗会は、東京・代官山を基点に開催された。
第64回:ルノー「カングー」に乗って考えた「なんでこんなクルマが欲しくなるんだろう?」

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バカデカい荷室にはゴルフバッグとスポーツバッグとなぜか水着が? まだまだ入るぜ!
第64回:ルノー「カングー」に乗って考えた「なんでこんなクルマが欲しくなるんだろう?」

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』