第15回:感覚の鋭いお客さま
2013.02.08 リーフタクシーの営業日誌第15回:感覚の鋭いお客さま
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“セン”のない電気自動車?
「あらやだ、なんか変よ、このタクシー。ねぇ、〇〇ちゃん、変よね、このタクシー」
走りだすなり「なんか変よ」を連発したのは、伊勢丹の大きな買い物袋を3つも抱えて新宿3丁目からリーフタクシーに乗り込み「ペニンシュラホテルまで」と目的地を告げた母娘連れの客の、お母さんの方だった。
「お母さん、このタクシー、少し小さいから変だと思うんじゃないの?」「違うわよ、そんなこと、私だって見ればわかるもの」リーフタクシーの運転手(=矢貫隆)は、いつものごとく「お客さまのお話は聞こえていませんよ」みたいに無言で、でも、聞かれたら「何かヘン」の理由をすぐに答えられる心の準備は万端に整えていた。
「あら、お母さん、このタクシー、『電気自動車』って書いてあるわよ」娘とおぼしき若い方の女性客が運転席の後ろに貼ってある『電気自動車』の白いステッカーを見て言った。
「あらやだ、私、電気自動車のタクシーに乗ってるの?」
あらやだ、俺、電気自動車のタクシーの運転手なんですけど、とは口には出さず、この時点でもまだ無言。それにしても、このお母さん、感覚が鋭い。しかも飛び抜けて。
ほとんどすべての客は、乗り合わせた妙な格好の黒いタクシーが電気自動車だと知って初めて「うん、確かに乗った感じが違う」とか「それに音も静かだ」となる。このお母さんのように、いきなり「あらやだ」とはならないものなのだ。
「ねえ、運転手さん……」
鋭い感覚のお母さんが運転手を呼んだ。
「このタクシー、ほんとに電気自動車なのかしら?」
はい。
「あらやだ、私、乗るときに気がつかなかったわよ、センに」
センですか?
「そうよ、センがあるなんて、私、全然わからなかったもの」
この後、約1分間にわたって「セン」についての問答があり、ついに運転手は、お母さんが言う「セン」が「線」であることにたどり着き、30年くらい前の漫才かよと思いつつ、準備万端のはずが想定外の質問にうろたえたのだった。

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、 ノンフィクションライターに。自動車専門誌『NAVI』(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同『CAR GRAPHIC』(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 『自殺-生き残りの証言』(文春文庫)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、 『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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