第12戦ベルギーGP「特別な場所での“第2の開幕戦”」【F1 2012 続報】

2012.09.03 自動車ニュース

【F1 2012 続報】第12戦ベルギーGP「特別な場所での“第2の開幕戦”」

2012年9月2日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ベルギーGP。スタート直後の多重クラッシュで様相が大きく変わり、ジェンソン・バトンはほぼ敵なしで楽々と今季2勝目を飾った。しかしレースが単調でおもしろくなかったかといえば、そうではなかった。

■特別な場所、スパ・フランコルシャン

あれは1991年のことだった。まれにみる完成度で新興チームらしからぬパフォーマンスを発揮していたジョーダン(現在のフォースインディア)で入賞を重ねていたベルトラン・ガショーが、イギリスでは違法とされる護身用スプレーを使ったことで、シーズン途中、罪人として刑務所に収監されてしまった。

ぽっかりと空いたジョーダンのシートを埋めたのが、当時まだ22歳だったミハエル・シューマッハーだった。それまでメルセデスの若手育成プログラムの一環でスポーツカー選手権を戦ってきた若きドイツ人は、母国の大メーカーの後押しもあって、突如、最高峰カテゴリーへのチケットを手に入れることができた。

初陣を飾る舞台となったのはスパ・フランコルシャン。ただでさえ準備ままならない状況にも関わらず、F1屈指の難コースでシューマッハーはいきなり予選7位という好位置を得て、大物ルーキーとしての存在感を鮮烈に示した。次戦からベネトン(今のロータス)に電撃移籍。そして翌年、同チームで味わった初優勝の地は、やはりスパだった。
以後、このドライバーズサーキットで最多の6勝を記録。2001年にアラン・プロストの最多勝記録を更新し、2004年には5年連続、7度目のタイトルを、このアルデンヌの森に横たわるサーキットで獲得した。2000年のレースでは、好敵手ミカ・ハッキネンと熾烈(しれつ)な優勝争いを繰り広げたことも記憶に残る。カムバック2年目の昨年は、24番グリッドから挽回し5位入賞を果たした。

多くのドライバーが好きなコースの筆頭に挙げるスパ。スパは特別。そしてシューマッハーはスパで特別な存在なのである。91回の勝利、7度の栄冠、68回のポールポジション、77回のファステストラップ、獲得総ポイント1546点など、数々の前人未到の記録を残しているシューマッハーは、今年、この特別な場所で、参戦300回目の節目を迎えた(決勝をスタートした回数からすると298戦目)。

シューマッハーに次いでスパを得意とするドライバーがいる。2007年チャンピオン、キミ・ライコネンだ。2004年から2009年の5レース(2006年はGPが開催されていない)で4勝、落とした2008年のレースでも大半をリードしながら雨でスリップしクラッシュ、リタイアをきっした。つまりスパでフィニッシュしたすべてのレースで勝っているのだ。

6勝のシューマッハー、さらにはアイルトン・セナの5勝、1960年代を席巻し2度タイトルを獲得したジム・クラークとライコネンの4勝、5回チャンピオンになったファン・マヌエル・ファンジオと、1996年王者デイモン・ヒルの3勝 ── スパ・フランコルシャンの歴代ウィナーには名だたるドライバーが並ぶ。

ドライバーや関係者から愛されるこのコースは、現GPコース最長の1周7km。名物コーナー「オー・ルージュ」をはじめ、数々のチャレンジングなコーナーが高低差100メートルの中に散在する。第1、3セクターは直線的な高速区間、真ん中の第2セクターは山を駆け下りるツイスティーなセクションと、場所ごとに変わるコース特性にマシンをどうあわせ込むかという難しさもある。そして、目まぐるしく変わる「スパ・ウェザー」も難敵である。

フェルナンド・アロンソが40点差をつけ、チャンピオンシップをリードして折り返した2012年シーズン。1カ月のサマーブレークを終えたF1は、3カ月で9戦をこなすという超過密スケジュールの後半戦に突入した。
真に強いものが勝つことができる難コース、スパ・フランコルシャン。“第2の開幕戦”として、今季のタイトル争いを占う意味で絶好の場所といえた。

■小林可夢偉、自身最高位の予選2位

金曜日はかなりの量の雨に降られたが、土曜日には好天となり予選はドライで行われた。トップ10グリッドを決めるQ3では、マクラーレンのジェンソン・バトンが、チャンピオンになった2009年以来となる久々のポールポジションを獲得した。

予選2位には、ザウバーの小林可夢偉が入った。ポールタイムに0.298秒及ばなかったものの、予選での自身最高位を更新して堂々のフロントローにつけた。3位はパストール・マルドナドのウィリアムズだったが、Q1で他車を妨害したとして3グリッド降格のペナルティーを受けた。これによりロータスのライコネンとザウバーのセルジオ・ペレス、そしてポイントリーダーのアロンソが3番、4番、5番グリッドに繰り上がった。

シーズン中盤に速さを取り戻してきたマクラーレンだが、前戦ハンガリーGPを制したルイス・ハミルトンは、旧型のリアウイングを選んだことが仇(あだ)となり予選8位、同7位のマーク・ウェバーがギアボックス交換により5グリッド下がったことで7番グリッドからスタートすることとなった。
8番グリッドにはロータスのロメ・グロジャン。フォースインディアのポール・ディ・レスタを間に挟み、Q2敗退で11位だったレッドブルのセバスチャン・ベッテルが10番グリッドにつけた。

■スタート直後の多重クラッシュ

スパの1コーナーは鋭角に切れ込む特徴的なターンで、スタート直後の事故が多い場所でもある。そして今年も複数のマシンが絡むアクシデントで幕を開けることとなった。

バトン、ライコネンが難なくスタートを切ったその後方では多重クラッシュが発生。セーフティーカーが導入された。
事故の発端は、グロジャンがハミルトンに幅寄せしたことだった。マクラーレンとロータスはもつれあい、グロジャンのマシンは前を行くペレスのザウバーに乗り上げてしまう。宙を舞ったロータスはアロンソのフェラーリを巻き添えにコース外へ飛び出し、アロンソとハミルトンのマシンは、スタートで出遅れた小林のザウバーにも襲いかかった。

この時点で、チャンピオンを争うアロンソとハミルトンが早々にリタイア。ペレス、グロジャンも戦列を去ることとなった。レース後、クラッシュを起こした責任を問われたグロジャンには、次戦出場停止と罰金という重いペナルティーが科された。

44周レースの5周目に再開。1位バトン、2位ライコネン、3位に11番グリッドのニコ・ヒュルケンベルグ、4位ディ・レスタ、5位には13番グリッドのシューマッハーと、スタートの混乱が順位と顔ぶれに大きな影響を与えたことが分かる。そしてこの事故は、トップのバトンには追い風となった。
バトンは10周目で5.8秒、14周もすると10秒ものリードを築いた。持ち前の速さに加え、強力なライバルがいなくなったことで、ミスとトラブルさえなければマクラーレンを脅かすものはなくなっていた。

しかし、だからといって、レースがつまらないものにならないのが、名コースたるゆえんでもある。

■ライコネン対シューマッハーの攻防戦

勝者がほぼ決まってしまったレースをおもしろくしたひとりが、2010、2011年チャンピオンのベッテルだった。予選で上位に食い込めなかったレッドブルのエースは、再スタート後には12位まで順位を落としたものの、そこからの挽回が見事だった。中位から抜け出せないチームメイトのウェバーを尻目に、追い抜きやすいコース特性も手伝って、次々と前車をオーバーテイク。15周目には3位にまでのぼりつめた。
ベッテルは、多くが2ストップ作戦を取った中で、バトン同様1ストップで走り切れたのが奏功し、結果2位でフィニッシュすることに成功した。

そして、ライコネンとシューマッハーの攻防戦も手に汗握るものだった。序盤ペースが伸び悩んだライコネンは、12周目に早々にピットへ飛び込み、ニュータイヤで追い上げをはかった。ライコネンは2ストップ、いっぽうシューマッハーは1ストップに賭けレース終盤に3位を走っていた。

31周目の最終コーナー、既に2度目のタイヤ交換を終えたライコネンがシューマッハーを抜き3位へ。だがストレートが速いメルセデスを駆るシューマッハーは、続く「ケメル・ストレート」ですかさず抜き返した。
ロータスはトップスピードに劣るため、仮にDRSを使ったとしても直線ではなかなかオーバーテイクに至らない。34周目、ライコネンはストレート勝負ではなく、「オー・ルージュ」の飛び込みで仕掛けメルセデスを料理、巧みなドライビングと戦術でポディウムの一角を勝ち取った。

シューマッハーは、タイヤの限界を悟り2度目のピットストップを敢行。ギアの不調にも見舞われたが、300戦目のメモリアルレースを何とか7位入賞で終えた。

■残る200点の奪い合い

アロンソの強さは安定感にある。今回のもらい事故で、連続入賞は23で途絶え、シューマッハーの持つ記録24を超すことはなかったが、最速のマシンを与えられなくても常に拾えるポイントは可能な限りもらっていく、というしたたかさが彼の持ち味のひとつといえる。
だから、前半戦でアロンソが築いた40点のリードを切り崩すのはそう簡単ではない、と、ライバルは恐れていたはずである。

それが思わぬ無得点で形勢が変わってきた。アロンソとランキング2位のベッテルの間には24点。次回、またしてもアロンソがリタイアし、ベッテルが優勝すれば首位逆転となる差まで縮まった。

トップのアロンソから5位ハミルトンまでは47点の差。そして残る8戦で手に入れられる最高ポイントは200点。まだ多くのドライバーにタイトルの可能性があるということだ。

次戦は1週間後の9月9日、高速コース、モンツァを舞台としたイタリアGPが行われる。

(文=bg)

開幕戦オーストラリアGPに次ぐ今季2勝目をあげたジェンソン・バトン。初戦の勝利から下降線をたどり続けた2009年チャンピオンが、“第2の開幕戦”で息を吹き返した。(Photo=McLaren)
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ロメ・グロジャンを発端としたスタート直後の多重クラッシュに巻き込まれ、ポイントリーダーのフェルナンド・アロンソがまさかのノーポイント。アロンソは落としたポイントに落胆しつつも、けががなかったことは幸運だったとコメント。実際、グロジャンのロータスはフェラーリのコックピットをかすめるように宙を舞い、一歩間違えれば大惨事になりかねなかった。(Photo=Ferrari)
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過去ベルギーGPでは未勝利、表彰台には2度しかのぼったことがなかったバトン。今年は3年以上ぶりのポールポジションから、一度もリードを譲らず、1ストップで走り切り優勝した。ポイントリーダーのアロンソからは61点も離されているが、マクラーレンの復調はタイトル争いをますます激化させるはずである。(Photo=McLaren)
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予選で失敗しQ2敗退となったレッドブルのセバスチャン・ベッテル。レースではオーバーテイクを繰り返し、10周のうちに12位から3位へと躍進。タイヤも上手にコントロールし、1ストップ作戦で2位表彰台にのぼった。ランキングでも2位に上昇、3連覇の夢はまだ諦めていない。(Photo=Red Bull Racing)
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これまでスパで5戦4勝しているキミ・ライコネン。今回は序盤に苦戦し、ニコ・ヒュルケンベルグのフォースインディア、ミハエル・シューマッハーのメルセデスに先を越されたが、早めのタイヤ交換で追い上げをはかり3位でゴール。シューマッハーとのコース上での丁々発止は手に汗握る白熱の戦いだった。(Photo=Lotus)
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GP参戦300戦目のメモリアルを、特別な地、スパで迎えたシューマッハー。300戦に到達したドライバーは、かつてフェラーリで仲間(子分?)だったルーベンス・バリケロに次ぐ2人目となる。節目のレースで最高の成績を残したかったが、メルセデスのマシンはストレートが速くともタイヤには厳しかった。1ストップに賭けたが終盤ライコネンとの3位争いに敗れ、たまらずピットに飛び込み結果7位。(Photo=Mercedes)
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予選2位という絶好のグリッドを獲得したザウバーの小林可夢偉(写真左)。表彰台に期待がかかったが、スタートでは出遅れ、そのせいもあって、多重クラッシュの巻き添えをくらってしまった。リタイアこそしなかったものの3度のピットストップで中位に埋もれ13位完走。悔しさの残る週末となった。(Photo=Sauber)
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