「倒立ダンパー」のメリット、デメリット

2002.04.05 クルマ生活Q&A サスペンション

「倒立ダンパー」のメリット、デメリット

毎日、『webCG』を楽しく拝見しています。さて、「倒立ダンパー」について質問します。「ビルシュタイン」など高性能と言われるダンパーには倒立式のものがあり、剛性が高いといわれます。でも、あまり普及していません。おそらくコストなどのデメリットがあるからだと思いますが、単にダンパーの上下を逆さまにするだけで、それほどコスト増になるのでしょうか? 倒立ダンパーのメリットとデメリットについて教えてください。(岡山県岡山市・YTさん)

お答えします。まずメリットの面からですが、「倒立ダンパー」を採用することにより、サスペンションの剛性を上げることができ、バネ下荷重も軽くなります。そのため、路面への追従性が高まるので、スポーツモデルに好んで使われます。
一方、デメリットは、部品点数と製造工程が増えるので、製作コストがかかり、クルマの値段を押し上げることです。「パフォーマンス」と「コストパフォーマンス」のトレードオフとなるわけですね。

「倒立ダンパー」について、さらに詳しく説明します。
ショックアブソーバー(=ダンパー)は、簡単にいうと、薬液のつまった注射器のようなもの。水が満たされた桶に水鉄砲をつっこんで、引き手を押し引きしていると考えると、もっとわかりやすいかもしれません。
ダンパーは、オイルが封入された「シリンダー(筒)」に「ピストンロッド」を差して、出し入れします。シリンダーとピストンロッドの間には「オリフィス」という、小さな穴が空いた円盤がはめ込まれます。オリフィスの穴をオイルが通る抵抗を、ボディの揺れを収斂(しゅうれん)するダンピングとして活用するわけです。

通常のダンパーはピストンロッドが上側にあってボディに固定され、シリンダーは下側でサスペンションアームに取付られます。これをそのまま逆さにすると、オイルがオリフィスを通る前に、シリンダー内のエア(空気)が圧縮されるので、ダンパーとしての機能を果たせません。オーバーに言うと、ダンパーどころか、エアスプリングの働きをしてしまうのです。

そこで、倒立ダンパーでは、シリンダーの中にオイルとガスを分けるためのピストンが設けられます。エアを完全に抜いたオイルの上に、ガスが封入された部屋が用意され、両者はピストンで仕切られます。
そんなに複雑な構造にしなくても「シリンダー内のエアを完全に抜いておけばいいのでは?」と思う方もいるでしょう。論理的にはそうなのですが、実際にはシリンダー内をピストンが上下するので、エアが混入する「エアレーション」という現象が起きます。特に苛酷な走りが要求されるモータースポーツでは、エアが入ることでダンパーの働きが弱まるのが問題となるのです。

「倒立ダンパー」の“凄さ”は、それだけではありません。

サスペンション形式がストラットの場合、サスペンションはダンパーのピストンロッドとシリンダーで剛性を確保します。通常のダンパーでは、ピストンロッドが上になるため、コーナリングやブレーキングなどで負荷がかかるとロッドがしなり、剛性が低下します。
そこで倒立式の出番となるわけです。そもそも太いシリンダーが上になるだけでなく、下部に移されたピストンロッドのまわりに、さらにシリンダーを覆うようにパイプが取り付けられます。これによって上部がオス型、下部がメス型のシリンダー関係になり、ダンパー全体が太くなった分、剛性を上げることができるのです。またオイル等が含まれる重いシリンダーが上部に移行するので、バネ下荷重の軽減になります。

ダンパーを逆さにしても安定した性能を発揮させるのは、かくも大変なものなのです。「倒立ダンパー」が高価で、スポーツモデル以外ではなかなか採用されないのもわかりますね。

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