「マゼラーティ3200GT」は腕におぼえのあるひとに

1999.04.01 自動車ニュース
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「マゼラーティ3200GT」は腕におぼえのあるひとに(4/1)

マゼラーティのグランツーリスモ(GT)でまっさきに思い浮かぶのは1957年に登場した3500GTである。最も美しく速いグランプリカーであった250Fのエンジンをベースに、マゼラーティが魂を入れた4人乗りのGTであった。スタイル、性能、そして長距離旅行などの優雅なライフスタイルの示唆......GTカーにおける一つの方向を作り出し、世に知らしめたモデルである。そのマゼラーティが発表した新しいGTモデルと聞けば、自動車好きは心が躍るのだ。

「マゼラーティ3200GT」は、ジウジアーロがデザインした魅力的な2ドアボディをもち、3.2リッター90度V8ツインターボエンジンを搭載している。最高出力は370ps/6250rpm、最大トルクは2700から5500rpmの広い範囲で45kgmも出る。エンジンに火を入れたとたん、2000回転ぐらいにタコメーターの針が跳ね上がる。そのときのエグゾーストノートは思わず震えがくるほどいい音だ。

ストロークの短いシフトレバーもフィールがいい。最近ではダブルコーンシンクロを売り物にする国産高性能車が出てきているが、「3200GT」はトリプルコーンシンクロを採用している。アイドリングからクラッチを踏み素早くギアを入れても、硬さをいっさい感じさせずスッと吸い込まれるように入る。

V6エンジンに組み合わせられたターボチャージャーは高出力を重点においたタイプで、3000rpmぐらいから出力がいっきに高まる設定となっている。ターボ車はゆっくりしたスロットルワークでは過給圧は上がりにくい。ハーフスロットルまでいっきにアクセルペダルを踏み込むと、ひと呼吸おいてその力は炸裂しシートに体が押し付けられる。レスポンスはよくレブカウンターの針はあっというまに6500からのレッドゾーンの手前に達する。ただし出力のピークは5500rpmあたりだ。

コーナリングは安定している。サスペンションの設定が上手で、路面への追従性がよいのだ。鍛造アルミ製ダブルウィッシュボーンに電子制御で減衰力を変えるダンパーを組み合わせたサスペンションは、コーナーを回っている途中に路面のバンプがあってもきれいに吸収してくれる。さらに、急激なトー変化がないので望んだように曲がっていける。ストレートでの乗り心地も良く、道路の継ぎ目を越えたときに突き上げがなく、そのあと不快な上下の揺れもない。

しかし問題がないわけではない。それはとくにターボ付きのエンジンの設定に起因している。コーナーの出口にクルマが向うのを見はからってアクセルを多めに踏みこむと、リアサスペンションのセッティングのせいで前輪が浮きぎみになるうえに、後輪に大きなトルクがかかるのでクルマが外側に押し出される、いわゆるアンダーステア傾向が強くでる。こういうときは、アクセルを戻してクルマの軌道を修正し、そののち加速する、というのが一般的な対処方法だ。しかし「3200GT」の場合はアクセルペダルのフィールが節度なく軟らかいうえに、前述のようにターボの立ち上がりが唐突なので、慣れないと思うように操れない。

マゼラーティも、ドライバーに「腕」がないとこのクルマを御すのが難しいと判断したのだろう、パワーオーバーステアに対処するためにトラクションコントロールを装備している。コーナリング中にリアが滑りだすと一瞬おくれて効きだす。「カッカッカッ」という音とともにブレーキをかけるのだが、ところが姿勢制御をする過程がリニアではなく、感覚的に不自然である。ブレーキがかかったとき、ドライブシャフトなどの駆動系の「遊び」に起因する音が異常に大きく聞こえるのにも驚かされる。

ブレーキは、F1などのモータースポーツでも有名な「ブレンボ」の4ポットアルミキャリパーが前後とも採用されている。しかし残念ながらペダルのタッチはフワフワしていて、踏み込むとペダルの戻りも悪く、マスターシリンダーに支障がある古いクルマに乗ったときのようだった。そのためコーナリング中に細かいブレーキングで姿勢制御をしようと思っても、なかなかうまくいかない。ここでも慣れがかなり必要なのだ。

マゼラーティはイタリアでは最高級車に分類される。とりわけ年配の人々からはフェラーリよりも熱狂的に支持されている。その理由は一時期熱心にレースをやり、好成績をあげていたからだ。その意味では「3200GT」も、乗るひとを選ぶレースカーの系譜に連なるクルマといえるかもしれない。このクルマに乗ることは、自分はクルマの運転がうまい、あるいは好きだ、といっているようなものなのだ。

最も似合うひととして私は、「ニューシネマパラダイス」に出演していたロマンスグレーのジャック・ペランを思い浮かべた。カッコいい中年にとくに似合いそうなクルマだ。ただしオススメはオートマティックトランスミッション搭載車である。これで荒々しい性格を少し抑えたほうがよい。旧き良きGTカーの雰囲気を楽しむだけでも十分だろう。腕におぼえのあるひとは、助手席の妻に運転の腕前を披露したくなるだろうが、そもそも女性はそんなことを喜ばないものである。(リポート=松本英雄)

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