Fニッポン第5戦リポート「判断力と総合力の勝利」

2000.07.06 自動車ニュース
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Fニッポン第5戦リポート「判断力と総合力の勝利」(7/6)

決勝当日の朝、鈴鹿サーキット上空は、雲ひとつない青空から照りつける太陽、真夏のまぶしい光、梅雨のさなかとは信じられない天候に恵まれた。

午前7時をまわったばかりだというのに、気温はあがり、じっとしていても汗がにじんでくる。まだピットはシャッターが閉まったままのチームがほとんど。そんな中、ルマンとナカジマ・レーシング、ダンディライアンの3チームがタイヤ交換の練習を繰り返していた。目を引いたのがナカジマ・レーシングの練習だった。

マシーンを止めた状態でタイヤ交換を練習するチームは多いが、ナカジマ・レーシングはマシーンを押して停止位置に滑り込ませ、ドライバー役が停止させてから、タイヤ交換を行なうという徹底したレース本番想定の練習を幾度となく繰り返していた。4秒台前半のタイムが記録されていた。

「最後の一回」と声がかかり、マシーンを押しているエンジン係のスタッフも少しほっとした表情。暑さのため、全員汗だく、疲労は相当なモノとうかがえる。だが、「最後の一回」のはずが、ほんの小さなミスがでた。タイムは5秒台に。「もう一回」とミスしたスタッフから声が上がる。暑さと疲労で集中力が落ちてしまったか、些細なミスが続く、そのたびに「もう一回」とだれかが声を上げる。だれも「もういいよ、このへんで切り上げよう」などとは言い出さない。何度も何度も納得いくまで繰り返す。ミスがあるとどこが悪かったか話し合い、役割や動きを確認して再度挑む。「最後の一回」の声がかかってから何度やり直したことだろう。

ドライバーがコース上でいくら速く走ってもタイヤ交換でのタイムロスは致命的なダメージとなる、理屈ではだれでも分かっている。それを現実の形として受けて止め、克服するために何が必要なのか、このチームのスタッフたちはプロフェッショナルとして当然のように承知している。

今回は、新設されたショートカットを使い、シケインを含む鈴鹿サーキット東スペシャルコースと名付けられた、1周2.788kmのコースを72周する。午後2時のスタート前、路面温度は48度前後まで上がり、タイヤにもドライバーにも厳しいレースが予想された。今シーズンから、レギュレーションが変更され、レース中に必ず一度のタイヤ交換が義務づけらた、さらにオーバーテイク・ポイントの少ないこのコースでは、タイヤ交換作業の成否やタイミングが重要な意味をもってくる。各チーム、タイヤをどう使うか、どのタイミングでタイヤ交換をするか、作戦を練りに練って臨んでいたに違いない。しかし、レースはこの作戦が一瞬にしてすべて吹き飛んでしまう展開となった。

スタートはトラブルもなくスムーズに全車1コーナーを通過。しかし、そのオープニングラップのダンロップコーナーで立川祐路(COSMO OIL CERUMO)と脇阪薫一(MOONCRAFT)が絡み、2台がリタイア。立川は、両手を高く振り上げ、悔しさをステアリングにたたきつけた。このアクシデントにより、セーフティーカーがコースにはいった。この状況を素早く把握して2周目にタイヤ交換のためピットに入ったのは、アメリカ帰りの服部尚貴(5ZIGEN)だ。「セーフティーカーを確認したタイミングではピットロードの入り口を過ぎていた」と、ミハエル・クルム(5ZIGEN)はレース後語った。このため、トップ集団のほとんどが3周目にタイヤ交換のためピットに飛び込んだのに対して、服部は、セーフティーカーがコースに入る前に、ピットに飛び込んだ。この好判断により事実上のトップの座を手に入れた。

最低一度はタイヤを交換しなければならないルールを考えれば、全コースがイエローフラッグで追い越し禁止や、セーフティーカーが入った時に行なうのが有利である。ライバルの速度が低いときにタイヤ交換を行なえば、一時的に順位を下げても、最終的にはその速度差により上のポジションにつくことができるからだ。
 
こう考えた服部はだれよりも早くピットレーンに入った。まだピットではタイヤが用意されていなかったことを考えても、服部が自らの判断でタイヤ交換の指示を出したのは間違いない。他のドライバーからすれば、してやられたという状態だろう。

セーフティーカー先導のパレードラップが続く、タイヤ交換を先送りにした脇阪寿一(ARTA)を先頭にラルフ・ファーマン(SHIONOGI NOVA)、山西康司(MORINAGA NOVA)がトップ集団を形成。

セーフティーカーの回転灯が消え、ピットに退き、9周目から再スタート。脇阪寿一(ARTA)がファステストを記録しながら後続を引き離しにかかる。脇阪にしてみれば、タイヤ交換組が遅い車にひっかかっている間に自分がタイヤ交換しようと、少しでも後続を引き離したいところだ。

しかし、14周目にまたもアクシデントが発生した。OSAMU(LEYJUN)とヤレック・ビェルチューク(COSMO OIL CERUMO)のマシーンが接触し、OSAMUのマシーンがはじき出されてクラッシュ。コースをはずれ、回転しながらタイヤバリアの上にひっくり返って停止した。サーキットに緊迫した空気が流れた、オフィシャルがマシーンの下をのぞき込み、両手で大きな丸をつくって見せた瞬間、観客席から大きな歓声がわき起こった。このアクシデントで、2度目のセーフティーカーが入ることになり、この間に、タイヤ交換をまだ済ませていなかったチームが続々とピットに入ってきた。

セーフティーカーの直後には、服部を先頭に高木虎之介(PIAA NAKAJIMA)、野田英樹(UNLIMITED Le Mans)、M.クルムと続いた。

レースが再開された24周目、高木がメインストレートで服部の真後ろに付け、1コーナーで外側から一気に服部を抜き去りトップに躍り出た。服部は「当然来るのは分かっていたが、タイミングをうまく取れなくて抑え切れなかった。悔しい」とレース後語った。服部はエンジンをオーバーレヴさせて、調子を崩し後退。2位に野田が、3位にクルムが上がった。

高木が独走態勢に入った後ろでは、野田とクルムの激しい2位争いが展開された。クルムは何度となく野田に襲いかかるが、野田のマシーンはストレートで早く、クルムはどうしても1コーナーで前に出ることができない。コーナーで速いクルムは、2コーナーからS字と果敢にアタックを試み続けるが、並ぶのが精いっぱい。野田の踏ん張りも相当なもので、前に出ることはできなかった。

終盤、ナカジマ・レーシングのピットに動きがあった、フロントタイヤを用意して待機している。レースの序盤にタイヤ交換をしたため、タイヤの消耗が激しいのか、高木のラップタイムはみるみる落ちて1分台に。この時点でタイヤ交換をしては、間違いなく2番手の野田、3番手のクルムに先行されてしまう。高木はペースダウンしたまま走り切り、トップでチェッカーを受けた。結局、タイヤ交換はされなかった。レース後のインタビューで「エンジンにトラブルが出た。もてぎの時のような症状だった」とペースダウンの原因を語った。

2位は野田が粘り勝ちで守りきった。マレーシアのGTオールスター戦以後体調を崩していた野田、この日の暑さとクルムのアタックがさらにのしかかるように疲労を深めたのだろう、自力ではコクピットから出られない状態だった。祝福とねぎらい、心配の声が飛び交い野田の周りは多くの人で取り囲まれた。

高木は、5位に入った松田次生(PIAA NAKAJIMA)と笑顔で言葉を交わし、3位のクルムが高木の肩に手を回して祝福。スタッフに連れられて、表彰台とは反対方向のピットに向かって歩きだし、中嶋監督以下、他のスタッフに「虎、そっちじゃない、こっちだ」と呼び返されていた。

ナカジマ・レーシングは開幕から5連勝。「全部勝ちたいね」と中嶋監督はもらしていたが、ここまでトラブルがなかったわけではないが、勝ち続けている。虎之介の速さはもちろんだが、それを支えるチームの力が多くの部分で一歩抜きん出ている、そう感じさせられたレースでもあった。

リポート=小林 晴彦

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