第3戦中国GP「“勝てそうで勝てなかったドライバー”の勝利」【F1 2012 続報】

2012.04.16 自動車ニュース
1982年チャンピオン、ケケを父に持つニコ・ロズベルグが、GP出走111戦目にして初ポールポジションから初優勝。これによりロズベルグは、ヒル(グラハム&デーモン)、ビルヌーブ(ジル&ジャック)に次ぐ史上3組目の父子ウィナーとなった。メルセデスの勝利は、1955年イタリアGPにファン・マニュエル・ファンジオが記録したポール・トゥ・ウィン以来、通算10勝目となる。(Photo=Mercedes)
【F1 2012 続報】第3戦中国GP「“勝てそうで勝てなかったドライバー”の勝利」

【F1 2012 続報】第3戦中国GP「“勝てそうで勝てなかったドライバー”の勝利」

2012年4月15日、中国の上海インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第3戦中国GP。タイヤをめぐりさまざまな作戦が交錯したレースで、「次に初優勝するドライバー」と目されながらなかなか勝利に恵まれなかったニコ・ロズベルグが、真っ先にチェッカードフラッグをくぐり抜けることに成功した。

通称「Wダクト」なるエアロデバイスを武器に、今季これまで予選での速さが光っていたメルセデス「W03」。上海ではロズベルグ(写真前)、ミハエル・シューマッハー(同後ろ)がレース序盤に1−2フォーメーションで走行。シューマッハーは早々にリタイアしたものの、メルセデスは懸案だったレース中のタイヤのデグラデーション(タレ)問題を克服し、2ストップ作戦をとったロズベルグの力走で見事勝利した。(Photo=Mercedes)
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■メルセデスの強力な武器

1955年を最後にF1から長く遠ざかっていたメルセデスは、2010年、前年の覇者ブラウンGP(その2年前までホンダだった)をダイムラーが買収することで最高峰カテゴリーに復活した。ホンダ、BMW、トヨタと次々と自動車メーカーのワークスチームが撤退する時代にあえてF1参戦を決めたドイツの巨人は、2006年に一度引退した自国の英雄ミハエル・シューマッハーをカムバックさせ、若きニコ・ロズベルグとともにドイツ色の強いチームを築いた(ただしファクトリーはイギリスにある)。

コンストラクターズチャンピオンシップでは2年連続で4位。トップ3チームとの差は歴然だったが、それにはブラウン時代、ホンダ撤退の余波でチーム規模を著しく縮小した後遺症の影響があったともいわれている。

世界的大メーカーの重役たちが、気が長いはずはない。真価が問われる3年目に、元ルノーのボブ・ベルらそうそうたる開発陣が手がけた「W03」をデビューさせたメルセデスは、たちまちパドックで(いい意味でも逆の意味でも)注目の的となった。昨シーズンから禁止された「Fダクト」なる空力装置の概念が応用された、通称「Wダクト」が採用されていたのだ。

マクラーレンはジェンソン・バトン(写真前)が5番グリッドから3ストップで2位。ルイス・ハミルトン(同後ろ)はギアボックス交換による5グリッド降格のペナルティーで7番グリッドから3位表彰台を獲得。ハミルトンは3戦連続の3位でポイントリーダーとなった。(Photo=McLaren)
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Fダクトは、空気の流れを利用して、直線走行時にリアウイングへのドラッグ(抵抗)を低減、最高速を稼ぐ装置だったが、メルセデスの場合はフロントウイングで使われているといわれる。ドライバーの手動(実際は足)でオン・オフされていたFダクトは禁止されたが、Wダクトではドライバーのスイッチングでリアウイングのフラップが開閉するDRS(ドラッグ・リダクション・システム)がきっかけで作動するとみられ、レッドブルやロータスなどライバルチームからは、「ドライバーの動作で空力特性をコントロールしてはいけない」というレギュレーションに抵触するのでは、という訴えが相次いだ。

しかし中国GP前、FIA(国際自動車連盟)は正式に合法と認めたことで、これが今年のメルセデス最大の武器となりつつある。要は、もともとパワフルだったメルセデスエンジンとあわせ「W03は、特に直線で速い」ということである。

実際、過去2戦の予選結果は上々で、開幕戦オーストラリアで4位、マレーシアでは3位(いずれもシューマッハー)と十分に優勝を狙えるポジションを得たのだが、レースで結実することはなく、ポイントはマレーシアでシューマッハーが獲得した1点のみに終わっていた。
レースでの苦戦の理由は、予選と違いDRSが使える区間が決まっている決勝では、先のWダクトの効果が薄まるということ、そしてそもそもピレリタイヤをうまく使い切れていないという点があげられていた。

GP2番目の長さを誇るストレートがある上海で、メルセデスがポールポジションを獲得しても何ら不思議はない。ただ、レースになれば別の話で、マクラーレンやレッドブルが息を吹き返すだろう。
決勝前、多くがそのようにみていた9回目の中国GPで、まさかメルセデスが、そしていまだ勝利の味を知らないロズベルグが、あれだけの活躍をみせるとは……。

Q3進出ならずで、まさかの予選11位。レッドブルのセバスチャン・ベッテル(写真)は、スタートでは大きく出遅れ、挽回のためにバランスの悪い2ストップをとった。2位までのぼりつめるものの、レース終盤にタイヤがすっかりパフォーマンスを失いズルズルと後退。ファイナルラップにはチームメイトのマーク・ウェバーにもかわされ5位でゴールした。(Photo=Red Bull Racing)
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■“勝てそうで勝てない”ロズベルグの初ポールポジション

2006年のデビュー戦でいきなり7位入賞、さらにファステストラップを記録し、鮮烈なイメージを残したロズベルグは、以降“勝てそうで勝てないドライバー”のひとりといわれながらキャリアを積んできた。
予選、決勝とも最高位は2位どまり。予選でトップ10に入ることも、表彰台を狙うこともできる“いいドライバー”だったが、それ以上の“特別な何か”を感じさせないのは、父であり1982年チャンピオンであるケケ・ロズベルグにレーシングドライバーとしてのキャリアを支えられてきた、彼の生い立ちに関係があるのかもしれない。

そのロズベルグが、111戦目でようやく自身初のポールポジションを獲得した。予選Q3早々に記録した1分35秒121は、ライバルに対し実に0.5秒も速く、セッション終盤まで他車がアタックを続けるのを尻目に、自らはさっさとコックピットを降りてしまうほどの余裕をみせていた。

週末を通じ好調をキープしてきたメルセデスのもう1台、シューマッハーは3番目に速いタイム。だが予選2位のルイス・ハミルトンのマクラーレンが、ギアボックス交換による5グリッド降格で7番グリッドに下がったことで、メルセデスがフロントローを独占するカタチとなった。

勢いに乗るドイツ勢のいっぽうで、ドイツの星、レッドブルのセバスチャン・ベッテルは大苦戦。3年連続して中国でポールポジションを獲得していたチャンピオンは、なんとQ3進出ならず11位、2009年ブラジルGP以来となる予選トップ10落ちを喫した。「RB8」の新しいエキゾーストシステムを嫌ったベッテルは旧型を装着することを選んだが、Q2では上位10台が0.3秒内にひしめく団子状態。新型を装着した僚友マーク・ウェバーが0.3秒速く予選7位だったことを考えれば、新システムでトライした方が得策だったのかもしれない。

前戦セルジオ・ペレスが2位でフィニッシュした今季序盤のダークホース、ザウバーは、上海でも余勢を駆り小林可夢偉が予選4位、ハミルトン降格で3番グリッドという好位置を得、ペレスも8番手につけた。またロータスのキミ・ライコネンは4番グリッド、その後ろにジェンソン・バトン、マーク・ウェバーが続いた。

ロータスのキミ・ライコネン(写真手前)は、4番グリッドから2ストップ作戦で2位まで上がるも、レースの残り半分をハード側のタイヤで走り切るには無理があった。最終的にポイント圏外の14位でゴール。チームメイトのロメ・グロジャンは同じく2ストップながら6位でレースを終え自身初得点。(Photo=Lotus)
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■タイヤがもたらした多様な作戦

今回のレースでは、2種類のピレリタイヤの使い方が多様な作戦をもたらした。ピットストップは2回か3回か、いつソフト側を履くかハードを使うか、スティントは長くとるか短くするか──それぞれさまざまな局面を迎えたドライバー、マシンがコース上に混在し、僅差の攻防戦が繰り広げられるスリリングな戦いとなった。

ロズベルグはスタートでトップを守り、シューマッハーが2位でチームメイトを追った。3番グリッドの小林はスタートダッシュで失敗し一気に7位まで後退。メルセデス勢の後ろには、3位バトン、4位ライコネン、5位ハミルトン、6位ペレスと続いた。

56周レースの5周目を過ぎた時点で、10位までが10秒以内を走る混戦状態。この間、2位シューマッハーは、首位から2周で1.1秒、4周で2.0秒と徐々に離され、後続にフタをする格好となり、ロズベルグは前にマシンのいないクリーンエアを謳歌(おうか)することができた。

メルセデス1−2フォーメーションは、13周目にシューマッハーがコース脇にマシンを止めたことで早くも崩れた。その直前にピットストップを終えていたシューマッハーのメルセデスは、右フロントタイヤのナットが締まり切らないままピットをあとにしてしまったのだ。

1位ロズベルグは後ろ盾を失ってしまったが、この日の彼に“助け”は不要だった。絶妙のセットアップでメルセデスは苦手としていたタイヤマネジメントを克服。3ストップでトップの座を狙うバトンのマクラーレンに対して、1回少ない2ストップでも首位を守り切ることができた。

フェラーリの苦しい戦いは続く。前戦マレーシアGPで劇的優勝を遂げたフェルナンド・アロンソ(写真)は、予選9位から同順位でゴールし2点を獲得。フェリッペ・マッサに至っては12番グリッドから13位完走といいところなし。少なくとも5月初旬のテストで予定される大幅なアップグレードまではこの苦闘は続くとみられている。(Photo=Ferrari)
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2位でゴールすることになるバトンには不運もあった。3度目のピットストップに入った39周目に左リアタイヤの装着に手間取りタイムロス。これで6位まで順位を落とし、トラフィックに邪魔されロズベルグを追いつめ切れなかった。
だが、1位ロズベルグと2位バトンの間には、最終的に20秒ものギャップができていた。仮にバトンにタイムロスがなかったとしても、優勝は困難だったかもしれない。

勝者ロズベルグと同じ2ストップ作戦でも失敗したドライバーもいた。ライコネンのロータスは、29周目にタイヤを交換するとレースの残り半分をハード側のタイヤで走り切る賭けに出た。42周で2位までのぼりつめたが、既にタイヤは寿命を迎えており、その後数周のうちに続々と後続車に抜かれ、ポイント圏外の14位でレースを終えた。

ベッテルも2ストッパーで、レース終盤ライコネンにかわり2位を走行していたが、3ストップでフレッシュなタイヤを履くマクラーレンとウェバーにはあらがえず5位でフィニッシュ。それでも予選での大きな遅れを挽回する、価値ある10点を手に入れることができた。
いっぽうで6位に入ったロータスのロメ・グロジャン、7位ブルーノ・セナ、8位パストール・マルドナドの2台のウィリアムズは2回のタイヤ交換で見事ポイントをたぐり寄せることができた。

ハミルトンのグリッド降格により自身最高位の3番グリッドからスタートしたザウバーの小林可夢偉(写真手前右)だが、出だしが鈍くオープニングラップで7位まで後退。中団のトラフィックに埋もれ思うようなレースができず、10位1点獲得という残念な結果に終わった。前戦マレーシアで劇的な2位フィニッシュを飾ったチームメイトのセルジオ・ペレスも予選8位から11位完走と振るわず。(Photo=Sauber)
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■“いいドライバー”からの卒業

ウィリアムズで4年間を過ごしたロズベルグが、2010年からメルセデスのドライバーとしてシューマッハーとパートナーを組むことが分かった時、若きドライバーの先行きを案じる声が多く聞こえた。7度タイトルを獲得した大ベテランは、チームを巻き込みながら才能あるチームメイトを“セカンドドライバー”に追い込み、自らの地位を確立してきた歴史を持っていたからだ。

カムバックを果たしたシューマッハーの走りには、かつての爆発的破壊力が薄れ、さらにメルセデス内での2人の立場も均衡がとれたものとなり、ロズベルグはシューマッハーを上回る活躍をみせはじめた。しかし衆目は「シューマッハーに往年の強さがなくなった」方に集まりがちで、ロズベルグは成長が評価されにくいポジションに身を置いていたのかもしれない。

今回、予選、決勝を通じ、ロズベルグの表情は自信に満ちあふれていたようにみえた。「速いマシンさえ与えてくれれば、自分だってやれるんだ」という信念を感じた。
バトンやウェバーのように、未勝利が長く続いた後に才能が一気に開花するドライバーもいる。ロズベルグはこの1勝で“いいドライバー”から卒業し、“特別な何か”を身につけることができるか? 今年のメルセデスは、そのためのパフォーマンスを十分に備えているようにみえる。

次戦は1週間後の4月22日、バーレーンGP。政情不安で昨年は開催が見送られ、今年も無事にレースができるか疑問視されていたが、FIAは4月13日、正式に開催されることを明言し、安全性を約束した。
しかしGPが民主化運動のデモに巻き込まれる可能性もあり、形勢は予断を許さない。

(文=bg)

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