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マセラティ・クアトロポルテGT S(FR/8AT)

その変身に野心あり 2013.08.07 試乗記 先代と比べてより大きく、豪華に生まれ変わった「マセラティ・クアトロポルテ」。新型3.8リッターV8ツインターボエンジンを搭載する上級モデル「クアトロポルテGT S」を試した。

あの素晴らしい音をもう一度

ごく穏やかに始動したV8ツインターボエンジンの音を聞いて、あらためてあの「クアトロポルテ」とは違うんだ、と実感する。新型3.8リッター直噴V8エンジンも迫力ある低音を響かせているが、火が入る時にクワッと叫ぶこれまでの自然吸気V8の、にぎやかな目覚めの咆哮(ほうこう)が懐かしい。トレンドに沿ってダウンサイジングした新型V8はもちろん大幅にパワーアップするとともに燃費も20%削減、実際のパフォーマンスでもマセラティ史上最速のセダン(最高速307km/h、0-100km/h加速4.7秒)になったとはいえ、胸に突き刺さるような快音と、触れるものすべてを切り裂くようなレスポンスを持つあの素晴らしいV8が役目を終え、姿を消したことは残念と言うほかない。

とはいえ、どれほどの傑作ユニットであったとしても、いつまでもそれに頼っているわけにはいかない。マセラティは次のステップとして、もっと大きなビジネスを目指しているのだ。すなわち新しいクアトロポルテをフラッグシップに据えた後は、「ギブリ」の名を復活させたよりコンパクトな新型スポーツセダン、さらにはSUVまでも投入してラインナップを拡大。現状7000台程度の生産台数を2015年には年間5万台まで引き上げるという野心的な戦略を立てているからだ。

従来型クアトロポルテは、エレガントで真にスポーティーな大型サルーンという新たなジャンルを切り拓(ひら)き、マセラティを復活させた立役者ではあるが、2003年のデビューからもう10年がたつ。もともと大型ラグジュアリーサルーンのセグメントはそれほど選択肢が多かったわけではない。ドイツ御三家メーカーのフラッグシップは、あくまでフォーマルなショーファードリブンカーの性格が強く、自分でステアリングホイールを握るパーソナルカーとしては「ジャガーXJ」ぐらいしかなかった。そこに切り込んで新たな市場を開拓したのがマセラティであり、その成功を見てポルシェやアストン・マーティンなどのライバルもこぞって大型4ドアサルーンを投入してきた。そんなフォロワーたちを突き放し、厳しくなるエミッション規制に対応するためには、ヒット作にしがみついているわけにはいかないのだ。

2015年までに年産5万台体制を目指すマセラティ。新型「クアトロポルテ」はその第一歩となる。
2015年までに年産5万台体制を目指すマセラティ。新型「クアトロポルテ」はその第一歩となる。 拡大
ウッドとレザーがふんだんに用いられたインテリア。インパネの中央にはアナログ時計、そして車載装備の多くを操作できる「マセラティ タッチ コントロール スクリーン」(ナビ兼用)が備わる。
ウッドとレザーがふんだんに用いられたインテリア。インパネの中央にはアナログ時計、そして車載装備の多くを操作できる「マセラティ タッチ コントロール スクリーン」(ナビ兼用)が備わる。 拡大
ZF社のトルコン式8段ATを搭載。低燃費モード「I.C.E.(Increased Control and Efficiency)」を含む、5つのシフトモードが用意される。
ZF社のトルコン式8段ATを搭載。低燃費モード「I.C.E.(Increased Control and Efficiency)」を含む、5つのシフトモードが用意される。 拡大
3.8リッターV8ツインターボエンジンは530psと66.3kgmを発生。オーバーブースト時にはトルクは72.4kgmに達する。
3.8リッターV8ツインターボエンジンは530psと66.3kgmを発生。オーバーブースト時にはトルクは72.4kgmに達する。 拡大
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リムジンとしても使える

全体的にボリュームが増した新型クアトロポルテは、ドライバーズシートに収まって周りを見渡してもやはり大きい。従来型のクアトロポルテにしても全長5m超、全幅ほぼ1.9mの大きなサルーンだったが、スリークなスタイルのせいで大きいというより細長い印象が強かった。室内も外寸の割にはタイトだったが、かえってそれがオーダーメイドのスーツのようにパーソナルでエレガントな独特の雰囲気を醸し出していた。

新型クアトロポルテのボディーサイズは全長5262×全幅1948×全高1481mmで、ホイールベースは3171mm。従来型に比べるとホイールベースで11cm近く、全長で15cm長くなっているうえに幅も高さも拡大されている。当然、それは室内スペースの拡大に反映されており、特に後席の足元は格段に広がった。また全高が高くなったことで、パッセンジャーの上半身周りの窮屈な感じも解消されており、リアシート優先のリムジンとしての仕事も十分こなせるだけの余裕を身につけている。
トランクも同様に拡大され、530リッターの十分な容量を備えるうえに分割可倒式トランクスルー機構まで備わっている。それでいながら、普通はプレミアムクラスでもパネルむき出しのリアパーセルシェルフの裏側、つまりトランクの天井に当たる部分まで豪勢な白いカーペットでカバーされているのがいかにもクアトロポルテらしい。すぐ汚れちゃうじゃないかって? その場合は交換すればいい。それこそイタリアの粋というものである。

最近ではあまり見かけないアルカンタラのルーフライニング(19万5000円のオプション)をはじめ、インテリアの華やかさは相変わらずだが、やや大きすぎるシフトパドルやステアリングホイール上のスイッチのクリック感など、滑らかさに欠ける部分が散見されるのが惜しい。またスポーツモードをオンにすると「スポーツモード上に」とメーターに表示されるところなども、ささいなことだが残念だ。ご愛嬌(あいきょう)といえばそれまでだが、怪しい日本語に変換するぐらいなら、英文のままか、カタカナにしておくほうがマシだろう。

明るいベージュで統一された試乗車の室内。オプションの「ナチュラルレザー」(37万4000円)がおごられている。インテリアカラーは「サッビア」(イタリア語で「砂」の意)と呼ばれるもの。
明るいベージュで統一された試乗車の室内。オプションの「ナチュラルレザー」(37万4000円)がおごられている。インテリアカラーは「サッビア」(イタリア語で「砂」の意)と呼ばれるもの。 拡大
3171mmにも達するホイールベースのおかげで、後席のレッグルームは広大。試乗車は5人乗り仕様(後席3人掛け)。オプションで4人乗り仕様(同2人掛け)も選べる。
3171mmにも達するホイールベースのおかげで、後席のレッグルームは広大。試乗車は5人乗り仕様(後席3人掛け)。オプションで4人乗り仕様(同2人掛け)も選べる。 拡大
トランク容量は530リッター。後席の背もたれは6:4の分割可倒式となっている。(クリックするとシートが倒れる様子が見られます)
トランク容量は530リッター。後席の背もたれは6:4の分割可倒式となっている。(クリックするとシートが倒れる様子が見られます) 拡大
メーターの間にあるインフォメーションディスプレイに表示される「スポーツモード上に」とは、どうやら「Sport mode on」の和訳らしい。
メーターの間にあるインフォメーションディスプレイに表示される「スポーツモード上に」とは、どうやら「Sport mode on」の和訳らしい。 拡大

飛ばせばよみがえるあの感覚

新しいクアトロポルテは、今のところ明らかに高速型である。今のところ、という意味は、従来型でも初期モデルはこの新型と同じように低速での乗り心地に落ち着きがなく、ステアリングもピクピク、チョロチョロとナーバスな手応えを示したものの、間もなく洗練度が格段に向上した経験があるからだ。

いっぽうで、速度が増すにつれてスタビリティーが際立ち、繊細なコントロールを受け付けてくれるようになるキャラクターはこれまで通りと言える。街中や首都高速程度のスピードではフリクションを感じさせた20インチタイヤの動きもしなやかさを増してピタリと路面に貼り付き、ステアリングも見違えるように正確なインフォメーションを伝えてくれるようになるから、道幅ぎりぎりまで大きなボディーを寄せる自信が生まれる。

530ps(390kW)/6500-6800rpmと72.4kgm(710Nm)/2250-3500rpmを生み出す直噴V8ツインターボのパワーは圧倒的だ。もちろん従来のNA V8のように扇情的ではないが、最新型ターボユニットらしく回転計の針がどの位置にあっても瞬間的に強大なパワーを生み出し、スムーズに有無を言わせず豪快に吹け上がっていく。おとなしく走る際にはごくスムーズな面だけが際立つ8段ATは、オープンロードでむちを入れるとさらに輝く。スポーツモード、あるいはマニュアルでパドルを操作して走る際にはダイレクトで電光石火のシフトを見せ、しかもシフトダウン時にはブリッピングして適切に回転を合わせてくれるのだ。結局、気がついてみると、長さほぼ5.3mで車重2トン以上もある大型セダンとは信じられないほどのペースで山道を駆け回っていることになる。

新興国を含め、グローバルでビジネスを成功させるにはクアトロポルテがオールラウンダーを目指して正常進化することは避けられないのだろう。ただし、一人の車好きとしては、野性味と儚(はかな)さが同居するカッコよさ、影があるからこそ深みのあるマセラティらしいエレガンスをこの先も守り続けてほしいと願う。

(文=高平高輝/写真=小林俊樹)

全長が約5.3mもある大柄なボディーは、50:50の静的前後重量配分を実現している。0-100km/h加速は4.7秒、最高速は307km/hに達する。
全長が約5.3mもある大柄なボディーは、50:50の静的前後重量配分を実現している。0-100km/h加速は4.7秒、最高速は307km/hに達する。 拡大
試乗車には「レトロホイール」と呼ばれるオプションのアルミホイールが装着されていた。タイヤサイズは前が245/40ZR20で、後ろが285/35ZR20。
試乗車には「レトロホイール」と呼ばれるオプションのアルミホイールが装着されていた。タイヤサイズは前が245/40ZR20で、後ろが285/35ZR20。 拡大
「アダプティブ・バイキセノン・ヘッドライト」の“眉毛”部分にMaseratiのロゴ。
「アダプティブ・バイキセノン・ヘッドライト」の“眉毛”部分にMaseratiのロゴ。 拡大
ボディーパネルは60%強がアルミ製とされ、100kgの軽量化を果たした。Cd値は従来比12%改善の0.31に。揚力は24%削減されているという。
ボディーパネルは60%強がアルミ製とされ、100kgの軽量化を果たした。Cd値は従来比12%改善の0.31に。揚力は24%削減されているという。 拡大

テスト車のデータ

マセラティ・クアトロポルテGT S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5262×1948×1481mm
ホイールベース:3171mm
車重:1900kg(乾燥重量) ※車検証記載値は2060kg。
駆動方式:FR
エンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530ps(390kW)/6500-6800rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/2000rpm(オーバーブースト時:72.4kgm<710Nm>/2250-3500rpm)
タイヤ:(前)245/40ZR20 99Y/(後)285/35ZR20 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.8リッター/100km(8.5km/リッター。欧州複合サイクル)
価格:1690万円/テスト車=1885万7000円
オプション装備:20インチ・レトロホイール(13万9000円)/シルバー・ブレーキキャリパー(5万3000円)/メタルシェント・ペイント(シャンパーニュ)(38万4000円)/パワーサンルーフ(18万6000円)/ナチュラルレザー(グレインB)(37万4000円)/アルカンタラ・ルーフライニング(サッビア)(19万5000円)/4ゾーン・オートマチッククライメート(20万6000円)/バウアーズ&ウィルキンス(B&W)サウンドシステム(42万円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2964km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:245.7km
使用燃料:50.8リッター
参考燃費:4.8km/リッター(満タン法)、5.3km/リッター(車載燃費計計測値)

マセラティ・クアトロポルテGT S
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