第59回:ロッカーはストラット式? オシャレ音楽ロードムービー
『ストラッター』

2013.09.12 エッセイ

フィアットじゃないパンダカー

薄汚れた壁には、ライブを告知するポスターが貼られている。その前を歩く男の足には、タイトなジーンズととんがった靴。タバコの吸い殻を落として、靴底でもみ消す。モノクロームの映像だ。タイトルの「ストラッター=strutter」はサスペンションのストラットと同じつづりだが、この場合は気取って歩く人のことをいうらしい。カッコつけのロッカーが、軽やかに街角を過ぎていく。

そして道を走っていくのは、パンダカーだ。「フィアット・パンダ」ではない。丸っこい形をした白のセダンなのだが、リアのボディーからウィンドウにかけて大きくパンダの顔が描かれている。どうやら、「クライスラー・ネオン」のようだ。1990年代に“日本車キラー”として鳴り物入りで登場し、華々しく散ったあのクルマである。運転しているのは、さっき気取って歩いていたロッカーのブレット(フラナリー・ランスフォード)だ。コイツは、カッコいいのか、カッコ悪いのか。

この時点では、彼はカッコ悪さの頂点にいる。恋人のジャスティーンと一緒に暮らすことになっていたのに、一転して別れを告げられてしまったのだ。ライブはなんとかこなしたものの、帰る場所もなくパンダカーに泊まる。パワーウィンドウすら付いていない、ショボいクルマだ。サスペンションはストラット式だけど、気取るどころじゃない。

© 2012 Alison Anders and Kurt Voss
「クライスラー・ネオン」
北米市場で売れまくっていた「トヨタ・カローラ」「ホンダ・シビック」などの日本車に対抗するために開発された小型車。極端なコストダウンを行ったため品質が致命的に低下し、競争力は低かった。1994年にデビューし、1999年にモデルチェンジして2005年まで作られた。

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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。