心にじわっと染みる30年前のバス風景
『昭和vs平成 バス風景今昔』を読んで

2014.04.22 From Our Staff

心にじわっと染みる30年前のバス風景
『昭和vs平成 バス風景今昔』を読んで

昔の東京を捉えた写真集は数多い。しかし路線バスを主役に据えて東京とその近郊を眺めたものは初めて見た。こういう試みはおそらくこの本が初ではないだろうか。読み終えたら、次の週末に“都内バス旅”に出かけたくなった。(webCG 竹下元太郎)

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『昭和vs平成 バス風景今昔』
ムック98ページ
29.2×22.6×0.6cm
発行年月日:2014年4月3日
出版社:ネコ・パブリッシング
本体価格:1700円+税

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■バス風景は街の叙事詩

クルマや鉄道と同じように、バスの周りにも豊かで深い趣味の世界が広がっている。そのけん引役を務める専門誌は、残念ながらクルマや鉄道ほど多くはない。しかし、それゆえ雑誌として作り手(編集者)と受け手(読者)の関係が理想的に保たれている“良誌”が多いという実感がある。つまり、読みたい時事ネタがフットワークよくちゃんと掲載されていて、一方で考察を必要とする記事についてはどしっと腰を据え、厚みをもって取材・執筆されているのである。ここに紹介する『バスグラフィック』も、そんな雑誌のひとつである。

『バスグラ』(愛情を込めてこう呼びたい)は基本的には「バスの今」を報じる雑誌であり、そこを起点に車両解説や歴史モノ、紀行モノなどを展開する、いわばバス趣味の総合誌である。しかし筆者は勝手に、1970年代から80年代のバスが見たかったら『バスグラ』というイメージを持っていた。ページをめくれば、必ずどこかにその時代のバスが出ているからだ。60年代後半生まれの筆者にとって実際に「これは懐かしい」と思える風景はやはり70年代であり80年代であるのだ。

うれしいことに、そういったちょっと古いバス風景だけを集めたスピンオフ版の別冊『昭和vs平成 バス風景今昔』が先ほど発売された。新宿、渋谷、東京といった大ターミナル周辺のバス風景をはじめとして、日本橋に神田神保町に新橋と、東京で生活し、東京で勤めている者なら誰もが知っているような、それゆえに誰もあらためて撮影しないような(おそらくこういった風景を体系的に捉えた写真はそれほど多く残っていないのではないだろうか)おなじみの場所の30年前の風景が79地点収められている。

面白いのはひと昔前の風景を掲載するだけでなく、そこを30余年の時を隔てて定点観測していることだ。当時撮られた写真を元にして、同じ場所、同じアングルで、2014年に撮り直している。例えば渋谷駅でいえば、西口(当時の南口)のバスターミナルのようにほとんど変わってない場所がある一方で、旧玉電跡のバス専用道のようにすでに失われた風景もきちっと定点観測されている。ページをめくるごとに「そうそう、こうだった」と、ため息ばかり出る。わが青春の80年代は昔になりにけりである。

街を行くバスは、街の雑なる景色とともに写してこそ生命を帯びる――本書を読み終えてそう感じた次第だ。並走するクルマの群れ、街の看板、道行く人のファッション、そのひとつひとつがバス風景を鮮やかに彩る。これは、きれいに撮ってこそよしとされるクルマや鉄道の写真とはまた違うバスの面白みであろう。あなたもぜひ30余年前の風景の中に迷い込み、あの日の東京でしばしバスに揺られていただきたい。お薦めです。

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