反日デモと大気汚染の影響は?【北京ショー2014】

2014.04.27 自動車ニュース
2013年6月に発売された「ホンダ・クライダー」。ホンダ初の中国開発・中国向けモデル。
2013年6月に発売された「ホンダ・クライダー」。ホンダ初の中国開発・中国向けモデル。

【北京ショー2014】反日デモと大気汚染の影響は?

北京モーターショーの開催は2年に1度。日本人である筆者が前回(2012年4月)と比較して大きく変わったと感じるのが、自動車市場をとりまく2つの“空気”である。その最新状況について考えてみたい。

交通渋滞に悩まされる北京。大気汚染ももはや先延ばしにできない問題になっている。
交通渋滞に悩まされる北京。大気汚染ももはや先延ばしにできない問題になっている。

■市場をとりまく2つの“空気”

1つ目は、2012年9月に中国各地で起きた激しい反日デモの影響だ。陝西省西安市ではデモ隊の一部が暴徒化し、路上の日本車を手当たり次第に破壊した。山東省青島市では、日本車の販売店が焼き打ちにあった。中国の消費者の間には「日本車を買うと壊されるのでは」と心配する“空気”が広がり、日本車の販売は一時大幅に落ち込んでしまった。

2つ目は、大気汚染の深刻化による文字通りの“空気”の悪化だ。環境規制が比較的厳しいとされる首都の北京でも、数十メートル先が見えないような濃いスモッグに覆われる日が珍しくない。危機感に駆られた中国政府は、排ガス規制の強化や都市部での新車販売の制限などに乗り出している。今後の自動車市場に少なからぬ影響を与えるのは間違いない。

<グラフ>「乗用車ブランドの国別市場シェア推移」(クリックすると拡大されます)
<グラフ>「乗用車ブランドの国別市場シェア推移」(クリックすると拡大されます)
2012年の北京ショーで発表された「日産シルフィ」。2013年に中国で最も売れた日本車。
2012年の北京ショーで発表された「日産シルフィ」。2013年に中国で最も売れた日本車。
「トヨタ・ヴィオス」。平均月販1万台超のヒット車。
「トヨタ・ヴィオス」。平均月販1万台超のヒット車。

■日本車の「品質神話」は揺らがず

反日デモの影響を時系列で見てみよう。左側のグラフは、中国の乗用車販売に占める日系ブランド、ドイツ系ブランド、中国系ブランドのシェアの推移を示したものだ。日系ブランドのシェアは、2013年2月には12%を切るところまで落ち込んだものの、そこからじわじわと上昇。11月にはドイツ系を逆転し、年末にはシェア20%に迫るところまで復活した。

背景には2つの要因がある。まずは言うまでもなく日系メーカー自身の努力だ。1年半前の反日デモの直後から、日系メーカーは「もし反日デモでクルマを壊されたら、修理費のうち保険でカバーできない部分を無料にする」と宣言。消費者の不安の払拭(ふっしょく)に努めた。さらに、反日デモ前から開発していた中国市場向けの新型車を予定通り投入し、その新車効果がシェア回復をけん引した。

2013年に中国で最も売れた日本車は日産の小型セダン「シルフィ」(約26万台)である。シルフィは米国や日本でも販売されるグロバールカーだが、2012年の北京ショーで世界初公開されたことからもわかるように、中国市場を強く意識して開発されたクルマである。ホンダが昨年6月に発売した小型セダン「クライダー」と、トヨタが同年11月に発売したコンパクトセダンの新型「ヴィオス」は、どちらも前回の北京ショーで初公開された中国市場向けのコンセプトカーの市販モデル。クライダーもヴィオスも平均月販が1万台を超えるヒット車種になっている。

もうひとつの要因は消費者の意識の変化だ。反日デモの直後は、日本車を買いたい人でも「クルマを壊されるのでは」という不安が勝っていた。しかし、中国政府が「愛国を口実にした破壊行為は犯罪」であるとして厳しく取り締まる姿勢を打ち出したことで、不安は徐々に薄まっていった。とはいえ、日本車に商品としての魅力がなければ失ったシェアは戻らなかったはずだ。販売の回復は、日本車の品質や燃費の良さに対する中国の消費者の信頼が今も傷ついていないことの証明と言えそうだ。

しかし安心するのは早い。グラフを見ればわかるように、今年に入って日本車のシェアは再び15%前後に下がってしまった。これが昨年末に安倍晋三首相が靖国神社に参拝した影響かどうかは、注意深く検証する必要がある。日系メーカーにとって、まだまだ気の休まらない日々が続きそうだ。

「トヨタ・レビン」
「トヨタ・レビン」
「ホンダ・コンセプトB」
「ホンダ・コンセプトB」
電気自動車の「ヴェヌーシアe30晨風」(日本名:日産リーフ)。
電気自動車の「ヴェヌーシアe30晨風」(日本名:日産リーフ)。

■大気汚染対策で中国メーカーに逆風

次に大気汚染の影響はどうか。中国政府は数年前まで、技術力の低い国内メーカーを保護するため、先進国並みの厳しい排ガス規制の導入を先送りにしてきた。しかし大気汚染の深刻化で市民の不満が高まり、これ以上の先送りは許されなくなっている。中でも首都北京の大気汚染のひどさは世界中に報道されており、政府はメンツをかけて解決に取り組まざるを得ない状況だ。

そのあおりを受けているのが中国メーカーである。マイカー増加による大気汚染悪化を抑制するため、すでに上海、北京、広州、貴陽、天津の5都市が自動車の新規登録台数の制限に乗り出しており、その他の大都市も同様の規制を検討中だ。そんな中、すでに規制を導入した都市では新車の登録権が売買されて高騰。結果として、懐に余裕のある富裕層でないと新車を買えなくなり、低価格が売り物の中国メーカーは販売不振に陥っているのだ。

北京ショーの開幕直前には、中国メーカーにとってさらなる「悪い知らせ」がもたらされた。中国政府がハイブリッド車(HV)を対象に補助金の支給を検討しているというニュースだ。中国政府は以前から電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車を対象に補助金を支給していたが、ガソリン車との価格差が大きすぎるため効果が上がっていなかった。そこで対象をHVにも広げ、エコカーの本格普及を図ろうというのだ。

言うまでもなく、これは日本メーカーにとっては朗報である。HVは日本メーカーのお家芸であり、トヨタは北京ショーで初公開した新型「カローラ」と「レビン」のハイブリッド版を2015年に中国で発売する。ホンダは、同じく北京ショーで初公開した「コンセプトB」の市販モデルを2016年までに投入する計画。またHVではないが、日産はEVの「リーフ」の中国版である「ヴェヌーシアe30晨風」を今年9月から一般ユーザー向けに発売する。

反日デモの後遺症という逆風と、大気汚染対策という追い風が日系メーカーの将来をどのように変えるのか、注意深く見守っていきたい。

(文と写真=岩村宏水)

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