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『渇き。』

2014.06.27 エッセイ

日本発の“痛い映画”

“痛い映画”というものがある。単に暴力描写の多い映画ではない。ホラー映画やカンフー映画などのジャンルものであれば、切り裂いたり殴ったりしても一種の様式美だ。だから、余裕を持って対することができる。厄介なのは、ヒリヒリするような切実さとリアリティーを持つ生々しい暴力描写だ。登場人物がひどいい目に遭うと、こちらに直接的に痛みが伝わってくる。痛いのは嫌だから目を背けたいのだが、それを許さない迫力がある。

このジャンルは、最近では韓国映画の独擅(どくせん)場だった。『息もできない』『悪魔を見た』『嘆きのピエタ』と、素晴らしい作品をいくらでも挙げることができる。そのものズバリの『痛み』という映画もあった。どの作品も、痛み描写に手を抜いていない。中途半端に描くと、てきめんにリアリティーは失われる。作品自体の力がなくなってしまうのだ。痛みがピュアになるほどに、向こう側にある怒りや悲しみがあらわになってくる。

『渇き。』は、韓国映画への日本からの回答だ。“痛い映画”の新たな展開を示している。その痛みは、重量感を持ちながらもポップでカラフルだ。スピード感があり、どこかファッショナブルですらある。武骨にひたすらパワーで押しまくる韓国映画とは好対照だ。そうは言っても、本当にすさまじい暴力描写がある。そのせいで、R-15指定になってしまったほどだ。そういったシーンに弱い人には、とてもおすすめできない。

原作は、2004年の『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の『果てしなき渇き』である。監督は『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』の中島哲也。彼はいつも原作をはるかにしのぐレベルの映画を作り上げてきたが、今回も期待にたがわない仕上がりだ。

(C)2014「渇き。」製作委員会 



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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。