コンパニオンが消えた!? その中国的裏事情【上海ショー2015】

2015.05.01 自動車ニュース
長安汽車の受付嬢。

【上海ショー2015】コンパニオンが消えた!? その中国的裏事情

モーターショーの“華”といえば、各社のブースを彩りクルマの魅力を引き立てるコンパニオンたち。ところが今回の上海ショーでは、主催者の決定でコンパニオンが禁止されてしまった。とはいえ実際に展示ブースを訪れると、そこには“受付係”や“車両説明員”と称する美人モデルの姿が……。一体どうなっているのか。その背景にある中国的な事情とは。

コンパニオンのいないモーターショーは何となく華に欠ける……。
BMWの受付嬢。
2012年の北京ショーのコンパニオン。肩を露出してミニスカートが定番だった。

■「モーターショーの本義に立ち戻る」の真意

上海ショーでコンパニオンが禁じられたというニュースは、プレスデイ開幕(4月20日)の前後に日本の新聞やテレビも報じたから目にした読者も少なくないだろう。しかしなぜ禁止する必要があったのか。現地紙の報道によると、主催者が今年1月に出展メーカーに送った通知書には「自動車展示会の本義に立ち戻り、技術と製品により注目し、発展的かつ創造的な雰囲気を醸成するため」という理由が書かれていたそうだ。

そのまま読んでも意味不明だが、実は逆さまに解釈すれば簡単だ。要するに主催者は、過去のモーターショーではコンパニオンの存在によって「技術と製品が脇役に追いやられ、不健全で非創造的な雰囲気が漂い、自動車展示会の本義から逸脱していた」と暗に認めているに等しいのである。

伏線は2012年の北京モーターショーにさかのぼる。中国では自動車市場の急拡大と販売競争の激化とともに、モーターショーに起用されるコンパニオンの数が年々増加。と同時に、コスチュームも人目を引くデザインを競うようになっていった。これがピークに達したのが3年前の北京ショーで、肩の露出やミニスカートは当たり前。胸元が大きく開いていたり、素肌が透けて見えたりする“際どい”衣装のコンパニオンも少なからず登場した。

それを地元メディアが大々的に報道すると、「自動車ショーではなくお色気ショーだ」、「主催者やメーカーは不謹慎」などの厳しい批判が世間から噴出した。これが転換点となり、コンパニオンのコスチュームは全体として露出を抑える方向に180度変わる。実際、筆者が取材した昨年の北京ショーではロングスカートの衣装が多かった印象がある。

インフィニティの受付嬢。
キャデラックの車両説明嬢。

■習近平主席の「反腐敗キャンペーン」も影響

とはいえ、コンパニオンそのものが禁止されたのは上海ショーが初めてだ。その裏にはさらに深い中国的事情がある。中国は共産党が政治を支配する一党独裁国家で、時の最高指導者が打ち出す方針が民衆や企業の行動に多大な影響を及ぼす。そんななか、現国家主席の習近平氏が強力に推進しているのが、官僚や国有企業幹部の汚職を厳しく取り締まる「反腐敗キャンペーン」である。

実は昨年から、その矛先が自動車業界に向かっているのだ。まず昨夏、共産党の汚職調査機関のチームが国有大手メーカーの第一汽車(一汽)グループの査察に着手。同社とフォルクスワーゲン(VW)の合弁会社の幹部が逮捕された。続いて昨秋には同じく国有大手の東風汽車に査察が入り、同社と日産の合弁会社の幹部を摘発、ホンダとの合弁会社の幹部も処罰された。さらに、今年3月には一汽グループの会長が当局に身柄を拘束され、業界全体に衝撃が走った。

中国の自動車業界で「3大メーカー」といえば、第一汽車、東風汽車(旧第二汽車)、上海汽車の3社を指す。そのうち一汽と東風に当局のメスが入ったということは、上海汽車も時間の問題と考えるのが常識だろう。それに取り締まる側の立場でいえば、どうせ摘発するならモーターショーのように世間の関心が高まる時期に行うほうがアナウンスメント効果が大きい。今回の上海ショーは、そんなピリピリした緊張感のなかで準備が進められたのだ。

上海汽車を頂点とする地元上海の業界としては、当局に査察着手の口実を与えるのは何としても避けたかった。それがコンパニオン禁止という異例の決定につながったと筆者は考えている。というのも、出展メーカーが広告代理店などを経由してモデル事務所に支払う出演料はほぼ“言い値”に近く、その一部が国有メーカー幹部への不正なキャッシュバックなどに流れていると長年囁(ささや)かれていたからだ。また、コンパニオンが国有メーカーや地元政府の幹部の“特別な接待”に従事しているといううわさも絶えなかった。さらに言えば、こうしたうわさが底流にあったからこそ、3年前の北京ショーは批判を浴びたのである。

ビュイックの受付嬢。
地元メディアのインタビューを受けるスバルの車両説明嬢。

■中国のモーターショーウオッチはやめられない

もちろん、そんな業界の事情を中国の自動車フリークは先刻お見通し。それだけに、上海ショーのコンパニオン禁止については「保身のためにショーの華を奪うなんて本末転倒」、「入場料を払って見に来るファンを軽視している」などの批判が相次いだという。開幕2週間前に主催者が行った記者会見でも、地元メディアの質問は「コンパニオン問題」に集中。このままではヤブヘビになりかねないと恐れたのだろうか。時を同じくして、「コンパニオンはダメだが、“受付係”や“車両説明員”という建前ならモデルを起用できる」という抜け道の情報がメディアに流れ始めた。

そして迎えたプレスデイ。多くの展示ブースでは、受付台の向こうに一目でモデルとわかる美人受付嬢が横一列に並び、来場者に向かってひたすらほほ笑みかけていた。また、クルマから少し離れた位置にタブレット端末を手にして立つ車両説明嬢もたくさんいた。コスチュームはビジネスライクで落ち着いたデザインが多かったが、プロのモデルさんだけあってやっぱりそれなりにセクシー。彼女らを地元メディアがインタビューする光景もあちこちで見られ、コンパニオン問題への関心の高さをうかがわせた。

ちなみにモデルさんたち、本来の受付係や車両説明員としてはまったく役に立たない。筆者がある日本メーカーの受付嬢に広報担当者への取り次ぎを頼んだところ、「ごめんなさい。わからないの」と困惑した表情だったし、車両説明嬢もタブレット端末の操作方法を知らない様子だった。

これに対してずさんと眉をひそめるか、大陸的なおおらかさと考えて笑ってすますか。受け止め方は人それぞれだろうが、世界の主要なモーターショーでこんな珍事が平気で起きる国を筆者は中国以外に知らない。だから中国のモーターショーウオッチはやめられないのだ。

(文と写真=岩村宏水)

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